THE★映画日記

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『フォードvsフェラーリ』:豪華な俳優陣による古き良きな大作映画

 

フォードvsフェラーリ (オリジナル・サウンドトラック)

フォードvsフェラーリ (オリジナル・サウンドトラック)

  • 発売日: 2019/11/15
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

 2020年になって公開された映画のなかでは現時点で個人的に最も感動したのは『ジョジョ・ラビット』であるが、客観的な「面白さ」や「出来栄えの良さ」が一番であると感じたのは『フォードvsフェラーリ』だ*1

 なにしろマット・デイモンクリスチャン・ベールを始めとする役者陣の豪華さがこの映画の肝だ。レースシーンを除けば画面の構成はわりと普通であり、登場人物の顔がアップになりながら会話したり怒鳴りあったりするシーンが多いのだが、俳優が豪華であればただの会話シーンも豪華になるものである。職人肌でエキセントリックなレーサーを演じているクリスチャン・ベールも良いのだが、本人自身も頑固者でありながら頑固な男同士の交渉や調整などの複雑な仕事もこなさなければならないマット・デイモンの方はさらに見る価値がある。脇役であるフォード社の社長や役員たち、フェラーリ社の社長など、誰も彼もが濃くて「圧」のある顔面をしているのだが、1960年代後半の「男の世界」を舞台とした作品の設定とマッチしている。

 映画の作風やテンポ感も、古き良き「男の世界」系の映画を意識したような作りだ。一方で、カトリーナ・バルフが演じるクリスチャン・ベールの妻役は「亭主を支える良い女房」という古臭い役柄でありながらも存在感や本人の人格がちゃんと発揮される描き方になっており、ここら辺には現代的なセンスもきちんと感じられた。

 この映画のいちばんメインとなるのはもちろんレースシーンであるのだが、中盤の、マット・デイモンクリスチャン・ベールが殴り合って取っ組み合いするシーンもかなり楽しい。「男同士が揉めるけど殴り合って解決して爽やかに仲直り」というシーン自体が、1960年代くらいを舞台にしないと陳腐で描けないものだ。

 

(私は未見だが)この映画と同様にル・マンレースを題材にした映画として1971年の『栄光のル・マン』という映画があるらしく、クリスチャン・ベールの演技は『栄光のル・マン』主演のスティーブ・マックイーンの演技にあえて寄せたものであるようだ。私がむしろ思い出したのは『大脱走』である。『大脱走』とこの映画の内容自体には何の関連性もないのだが、熱くむさ苦しい男たちが大量に出てくる熱血物語、そして2時間半や3時間近くという上映時間の長さに見合う面白さの込もった「大作」としての貫禄が共通しているのだ。

 逆に言えば、昔ながらの大作や名作を現代に甦らせたということであって、この映画自体のオリジナリティや新鮮さ、批評性みたいなものは希薄かもしれない。しかし、何も全ての映画がオリジナリティや批評性を追い求める必要はないし、これほどの「大作」には近年では滅多に出会うことはない*2。正月映画として見るなら特に最善の選択肢であっただろう。

*1:2019年公開の作品ではあるが、『マリッジ・ストーリー』も『フォードvsフェラーリ』並に出来栄えが良かった。

*2:昨年の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』もすごかったが。