THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

アカデミー作品賞ノミネート作品全作の感想を書いていくぞ!

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 めずらしいことに、今年のアカデミー作品賞ノミネート作品9作のうち日本で公開している7作は全て劇場やNetflixで視聴済みだ。せっかくなので各作品の感想や「アカデミー賞を取ってほしさ」などをサクッと書いてみよう。

 

『フォードvsフェラーリ』…感想記事をアップしている。映画作品としての面白さや「熱量」みたいなものはこの作品が一番だった。王道だが随所に光るものがあって飽きさせないストーリーと、豪華な俳優陣たちが噛み合っているのだ。ただし、どこかがとりわけ「新しい」ということもないのが難点だ。銀メダルや銅メダルがあるならそれには入賞してほしいが金メダルを取ってほしいとは思わない、というところである。

 

アイリッシュマン』…なにしろ3時間もあるうえに、これまでのスコセッシ作品に比べるとローテンポで地味な作品だ。その代わりに奥行きとか味わいみたいなものは増していたようである。映画好きの友人たちは「いくらNetflixで配信されているとはいえPCの小さな画面で3時間も観ていると絶対に集中できないから」という理由で映画館に観に行っていたが、それが正解であっただろう。私はPCの小さな画面で観ていたし途中で飽きてしまってアイロンとかかけたり料理とかしたりしながら観てしまったから決してちゃんと観たわけではない。そのためにきちんと批評できる立場ではないのだが、私を飽きさせる時点で大したことのない作品だとは言えよう。そして、この作品には『フォードvsフェラーリ』以上に「新しさ」が全く存在しないことが問題だ。スコセッシが監督してロバート・デ・ニーロが主演した作品がいまさらアカデミー賞を取ったところでテンションの上がる人間がいるだろうか?

 

ジョジョ・ラビット』…感想記事をアップしている。「泣きそうになる」という意味での感動はこの作品が一番だったし、劇場で見終わった後の高揚感もすごいものだった。ただし、感想記事でも書いたように「上手さ」が強調されすぎているところは気になるし、小細工を効かした小粒な作品という印象は否めないかもしれない。アカデミー賞を取ってくれれば個人的には嬉しいけれど、取れなくても仕方ないし文句は言えないなあ、という感じである。でもこの作品の「作家性」と「エンタメ性」の調和、「奇抜さ」と「王道」のバランス感覚はやっぱり見事なものだ。この作品がアカデミー賞を取ることで、同じように作家性のあるエンタメ映画が増えるようになったら嬉しいものである。

 

『ジョーカー』…ノミネート作品の中には明確にこの作品だけが一段と「レベルが低い」作品であることは間違いない。話題性はあるし名画になりそうな雰囲気はあるし主演俳優の演技がすごいことも疑いないのだが、しかし映画のレベルは低いのである。元ネタとなった『タクシードライバー』などの作品の印象が強過ぎて「新しさ」は感じられないし、「前半にフラストレーションを溜めて後半に爆発させる」というプロットでありながら後半の爆発部分が肩透かしで期待外れだったことも問題だ。さらに、「ジョーカー」というアメコミキャラクターで製作する必然性が感じられなかったのも難点である。もしもこの作品がアカデミー作品賞を受賞するとしたら「アメコミ映画がこんなに流行しているからそのうちアメコミ映画にアカデミー賞を受賞させなければならないけれど、いかにもアメコミな映画に受賞させるのは癪であるから、普通の映画っぽい雰囲気が強いこの作品に受賞させることでお茶を濁そう」という政治的な打算の結果に過ぎないであろう。

 

『マリッジ・ストーリー』…感想記事をアップしている。『ジョジョ・ラビット』と同じように「上手さ」や技巧がこれ見よがしな作品であるのだが、その技巧の使い方が扱われているテーマを表現するうえでかなりの効果を発揮しているので、文句のつけようもない。主演の男女二人の演技もすごいものである。最近はちょっと「映画離れ」を起こしていた私だが、この作品を観たことで映画熱が再燃して、監督のノア・バームバックの作品や主演のアダム・ドライバーの作品を観まくりだして連鎖的に他の作品もいっぱい観るようになって、観るだけでは飽き足らずこのブログを開設することにもなった。その功績だけでもアカデミー作品賞を受賞するにふさわしいであろう。

 

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』…2019年に日本で公開された映画の中では、文句なしにぶっちぎりに飛び抜けて面白いナンバーワンの映画だった。ここで感想を書くのは勿体無いので、感想は後日に改めて別の記事にて書く。この作品がアカデミー賞を受賞してくれても個人的には嬉しいのだが、『アイリッシュマン』ほどではないにせよ、こちらにも「いまさらタランティーノが受賞してテンション上がる奴がいるか?」という問題はある。しかし、タランティーノ作品の集大成というか、これまでのタランティーノ作品の中でもいちばんレベルが高い作品であることは間違いないので、そんな作品を完成させたご褒美として受賞するのもいいかもしれない。

 

『パラサイト 半地下の家族』…感想記事にも書いた通り、ケレン味のある代わりにテーマの描き方が中途半端で物語的にも疑問点の多い、「イロモノ枠」な映画に過ぎない。エンタメ性が高い点やオリジナリティを感じられる点では『ジョーカー』よりはずっとマシではあるのだが、それでも他の候補作に比べると明らかに格の落ちる作品だ。この作品が受賞するとしたら、「たまにはハリウッド以外の映画にも受賞させて話題を作ってやろう」という打算によるものでしかないだろう。

 

(番外)

『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』…日本ではまだ劇場公開されていないのでまだ視聴していないのだが、『フランシス・ハ』が私にとっては人生ベスト級の作品なので、監督のグレタ・ガーウィグに対する期待度がすごい。友人も家族も予告編を見たところ「全然面白そうじゃないんだけど」と言っているし、正直に言うと私も『レディ・バード』はあまりハマらなかったのでこの作品にもハマらない可能性はあるのだが、しかし一見すると地味な印象があり大したことのなさそうなこの作品が作品賞にノミネートされているということは、地味な印象を超える「完成度」なりなんなりが秘められているというかもしれない。この作品が受賞したら、日本で劇場公開された後にはさぞや期待感を込めてワクワクしながら劇場まで行けることになるのであろう。なので、個人的にはこの作品が受賞することに一番期待している。

 

『1917 命をかけた伝令』…こちらも日本ではまだ劇場公開されていないので観ていない。ある意味では『若草物語』以上に予告編から話の内容が想像つきそうな映画であるというか、技術やスペクタルのすごさはすごそうだが個人的な感動を抱けたり人生ベスト級の作品にはならなさそうな雰囲気がある(『ダンケルク』と同じような作品というイメージだ)。しかし、実際には「上手さ」や「すごさ」を超えた感動がある先品かもしれないが、観ていないのでわからない。この作品がアカデミー作品賞を受賞することに対する私の気持ちはきわめてニュートラルなものだ。