THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ビリーブ 未来への大逆転』

 

ビリーブ 未来への大逆転(字幕版)

ビリーブ 未来への大逆転(字幕版)

  • 発売日: 2019/08/02
  • メディア: Prime Video
 

 

 後にアメリカ初の女性の最高裁判事になったルース・ベイダー・ギンズバーグという人が1970年代に弁護士として行った男女平等裁判を題材にした映画。かなり地味な内容だが、悪くない。

 ハーバードの法科大学院の入学から始まるオープニングシーンからして、スーツを着た男性が大多数の中で女性である主人公が浮いた存在であることが強調される。せっかく入学したハーバードでも女性であるということだけでナメられて馬鹿にされるし、法律事務所にも就職できなくてロースクールの教員しか選択肢がないなど、映画の前半では主人公が直面する女性差別が描かれる。

 

 しかし、「男女平等裁判」といっても女性差別ではなく男性差別を訴える裁判をする、というのがこの映画のミソだ。男性という性別に基づいた法律上の差別が違憲であることを示すことができたら、その後には女性という性別に基づいた法律上の差別も違憲になる、という作戦である。邦題の「大逆転」もここにかかっている。

 こういうストーリーなので、「男性が見ても共感できる内容」となっている。主人公の夫はガタイがでかくて頭が良くて優しくて妻を対等に見なしていて料理もできる理想的な夫として描かれているし、裁判の原告である男性(男性という理由で母親の介護費用が税金から控除されないことを訴える)も出番は少ないながらもここぞという場面で主人公に理解を示す、いい感じのキャラクターとなっている。一方で、主人公と娘の関係にはともに女性差別と戦う闘士の連帯という「シスターフッド」的な要素もあって、まあ男性にも見やすい内容に仕上げつつフェミニズム映画のツボも押さえたバランスの良い作品といっていいだろう。

 同じフェミニズム映画でもたとえば女性参政権運動を題材にした『未来を花束にして』では主人公の夫は理解のたりない邪魔者として描かれていたが、この作品ではそうではない、ということである。一概にどちらが良くてどちらが悪いとか言えるわけではないが。

 

 しかしこれは作品自体の出来とは関係ないのだが、夫も妻もハーバード出のエリートのパワーカップルでその娘もティーエイジャーの頃から社会問題への意識が高くて…という設定には、実話だからしょうがないとはいえ鼻白むところがないではない(主人公が正義感と闘争心を持つ人物になれたのも、その母親の影響であるらしい)。主人公たちが住む家もめちゃくちゃ広くて金持ちっぽいし。冒頭の「ハーバード法科大学院の学生としての責任感」を強調されるシーンにも「エリートの入る大学ってスタート地点からして普通とは違うんだなあ」という感想を持った。

 実はこの映画の前半を見ていて思い出したのが『ズートピア』だ。あの作品も、正義感に基づいたを持っており能力のある主人公が女性差別の壁に阻まれる、という内容だった。自分に能力がないことを年々思い知らされておりそのために前向きな目標を抱くことも難しくなっている身としては、男女問わず、こういう主人公に共感することが難しくなってきている。『ズートピア』は公開当初は「ネオリベ的な内容だ」と批判されていたが、しかし、フィクションであろうと現実であろうと社会を変革するのは能力と志を持ったエリートであることもたしかだろう(そうじゃないとリアリティがない)。だが、考えてみたらそれにも一抹の世知辛さがある。