THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『パッセンジャー』:倫理的にヤバいのに主人公に同情してしまう怪作(ネタバレあり)

 

パッセンジャー (字幕版)

パッセンジャー (字幕版)

  • 発売日: 2017/06/28
  • メディア: Prime Video
 

 

 5000人もの乗客を乗せて、宇宙船が地球から移住先の星まで航海する。航海にかかる時間は120年だが、乗客たちは到着数ヶ月前に目がさめる設定でコールドスリープされている。しかし、出発から30年後、機械の故障により主人公(クリス・プラット)だけがたった一人目覚める。もうコールドスリープすることは不可能だ。到着は90年後なので、誰かが目覚める前に自分が死ぬに決まっている。施設の設備は乗客へのサービス精神たっぷりであり食料にも不自由せず、バーテンダー型のロボットは高性能のAIを備えていて会話相手にはなるが、それでもたった一人で過ごさなければならない事実には変わりない。当然ながら主人公は発狂しそうになったり自殺を考えたりする。

 しかし、ある日、主人公は冷凍睡眠中のヒロイン(ジェニファー・ローレンス)の姿を見て一目惚れする。そして、散々迷った末に、人為的に彼女をコールドスリープから起こしてしまう。つまり、主人公の境遇の道連れにしてしまったのだ。……主人公はその事実を隠してヒロインと交流する。他に相手もいないものだから、当然のごとく主人公とヒロインは恋仲になる。しかし、最悪のタイミングで、主人公の所業がバレてしまい…。

 

 この映画の冒頭は『キャスト・アウェイ』みたいな話であるし、文明的で商業的であるのに脱出不可能な状況で主人公がなんとかやりくりする描写の面白さは『ターミナル』に近い。しかし、ヒロインが目覚めてからは一転して、サスペンス的になる。ヒロインは当初は主人公の所業に気付かないのだが、観客は主人公が何をやったかを知っている。そして、映画の展開的にいつかバレるに決まっているということもわかっている。いわば「爆弾」を抱えたままヒロインと仲良くなっていく主人公の姿にはハラハラさせられるものがある。また、前半における主人公の境遇を見ていると主人公に哀れんでしまい、明らかな罪である主人公の所業にも同情や共感を抱いてしまうところがあるから、主人公と共犯的な感覚になってしまう。そして、主人公の所業を知って過呼吸っぽくなったりガチで主人公を嫌って遠ざけるヒロインの姿を見て、罪悪感も抱くことになる。

 シンプルならがあまり類を見ない話の設定が見事で、これだけで興味が惹きつけられてしまう。そして、未来世界の商業的宇宙船という設定のために、閉塞感のある設定なのに画面の色彩や小道具のバリエーションが豊富で視覚的に飽きがこない点も優れている。

 

 主人公の所業は倫理的にヤバい。相手の人生を奪うという点では殺人に近いが、社会から隔絶させて無理矢理に自分と同じ生活を共有させるという点では誘拐に等しいし、性犯罪的な要素もある。しかし、観客がつい主人公に共感したり同情したりしてしまう設定になっていることがポイントだ。これには能天気で無害で純真そうなクリス・プラットという俳優のキャラクター性も一役買っているだろう。性的シンボルの権化みたいなジェニファー・ローレンスもよい。

 

 ただし、終盤になんやかんやで宇宙船の機器を主人公とヒロインが二人で共同して解決してしまい、ヒロインは主人公に許しを与える…というエンディングはかなり微妙だ。エンタメ性を考えたらこういうオチにするしかないかもしれない。主人公が許されなかったら気まずい後味になりすぎる。しかし、人生を奪われる被害を受けたヒロインが相手の所業を許してしまうことは、特にこのご時世では色々とまずいだろう(実際、公開当時からこの点に関して否定的な意見は多かった)。ヒロインがストックホルム症候群になっていることを暗示するなど、単純な感動やハッピーエンドで済ませずに一抹の皮肉や後味の悪さは残すべきであるように思える。(いちばん無難なエンディングは、主人公が死んで、ヒロインはそれに涙しながらなんらかの方法でコールド・スリープに戻る、というものだろうか。)

 

 この映画は公開当時にも劇場で見たのだが、その時は「俺は面白いと思うけど客観的には大した映画じゃないよな」という感想だった。そういう感想が残っていたので配信サイトで視聴を始めたときにも最初はあまり気乗りしていなかったのだが、あっという間に作品に惹きこまれてついつい最後まで釘付けになった(クライマックスの宇宙船のトラブルを解決するシーンだけは陳腐なので流し見で済ませたけれど)。再視聴した後にも「客観的には大した映画じゃないよな」という感想は変わらないが、それでも惹かれるものは感じる。映画に対する感想とか評価というのも不思議なものである。