THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『マイ・インターン』

 

マイ・インターン(字幕版)

マイ・インターン(字幕版)

  • 発売日: 2016/01/13
  • メディア: Prime Video
 

 

 公開当時はわたしはフリーターで、劇場で観て「俺も仕事についてマジメに考えてまっとうに働いて真面目に生きるべきだなあ」みたいな感想を抱いた覚えがある。そもそもこのテのいかにも「イマドキの女性」向けの作品自体を見ることがほとんどなかったから当時は新鮮で面白く感じられた。しかし、いまになってNetflixで見返してみると、記憶よりも大したことがなくさほど面白くもないくだらない映画であった。アン・ハサウェイは美人なのはいいが女社長って顔じゃないし、ロバート・デ・ニーロはいちいちわざとらしくて気に食わない。

 なにより、いかにもアメリカンなベンチャー企業が舞台となっていることに苛立たさせられる。アン・ハサウェイが深夜まで働いてロバート・デ・ニーロがそれに付き合っているシーンからしてもうしんどいし、オフィスを自転車で移動したり売り上げが伸びたら鐘を鳴らしてフロア全体に響かせたりなどの細かい小道具で楽しそうさやエネルギッシュな雰囲気を演出しているのが嫌らしい。劇中ではアン・ハサウェイは外部からCEOを雇われて自分が解任されるかもしれないとか自分が仕事に夢中になっている間に子守を任せている旦那が浮気したとかでいちいち被害者ヅラしているが、このテの企業を運営している社長であればぜったい部下に対して感情労働を強いたりちょっと業績が悪くなったらすぐに社員を解雇したり非正規労働者を搾取したりなどの悪行をなしているはずだ。ファッション業界だから、途上国での児童労働や奴隷労働にも確実に関与しているだろう。そういうところを描きだしたらお話の内容がブレすぎるので描かなくてもいいのだが、それにしても「労働」や「仕事」をあまりにキラキラとしたものとして描きすぎているのだ。エマ・ワトソン主演の『ザ・サークル』は映画としてはつまらなかったが、ネオリベ的なシリコンバレー企業の負の側面を描こうとしているところは偉かった。

 また、アメリカの会社のくせにコンプラがないのか社内恋愛が横行しているところも気持ち悪かった。ロバート・デ・ニーロとマッサージ師の老いらくの恋はどっちも肉食的過ぎて見ていられない。下っ端の男性社員の連中はみんながみんなパッとしない顔をしたナードであるのだが、こいつらもお洒落なファッション業界で働いており(そしてたぶん高給取りであるので)普通に恋愛したりセックスしたりしていて鬱陶しい。男性社員が仕事の不安で泣いている女性社員にここぞとばかりに付け込んでスキンシップをはかるシーンはセクハラそのものだ。

 

 ロバート・デ・ニーロアン・ハサウェイにとって一から十まで都合の良い存在で、同じ設定で男女を逆転させた作品であれば価値観が旧弊的に過ぎるとされて総叩きされていただろう。そもそも仕事をバリバリやることに生きがいを感じる社長を主人公にされたところで、その役柄が男性であっても女性であっても共感できるわけがない。ロバート・デ・ニーロの役柄もあくまで女社長にとってのドラえもん的存在として描かれているので、本人のキャラクター性はかなり書き割り的で薄い。なにより、アン・ハサウェイ演じる女社長にせよロバート・デ・ニーロ演じるインターンにせよ、仕事映画らしく彼らの存在価値がその「有能さ」にかかっているところが見ていて悲しくなる。こういう映画を手放しで楽しめるのはまさに自分が有能でネオリベ社会で上手く立ち回れる存在であるか、そういう存在に憧れながらも搾取されるワナビーでしかないだろう。「男女逆転」や「恋愛を描かずに女性を描写している」などのポイントだけを見てこの映画を"先進的"なものと評価する批評家がいるとしたらそいつはアホとみなして間違いないだろう。