THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『椿三十郎』

 

椿三十郎

椿三十郎

  • 発売日: 2015/04/22
  • メディア: Prime Video
 

 

『用心棒』の続編的な作品ではあるが、主人公が味方といえる味方がメシ屋の親父しかおらず敵方をほとんど皆殺しにして終わるドライでダークな『用心棒』と比べて、青二才である九人の若侍の指導役的な立場に主人公がなる『椿三十郎』はかなり明るくて優しい作品となっている。睦田夫人や押し入れ侍の木村などのキャラクターたちのユーモラスさも素晴らしく、特に睦田夫人を相手にすると調子がくるってしまう椿三十郎三船敏郎)の姿が面白い。作中で最も見識があり剣の腕前も優れている椿三十郎であっても「本当に良い刀は鞘に納まっているものです」と言われてしまい、彼が決して絶対的な存在でないと相対化されているところもこの作品の妙だ。

 椿三十郎のライバルである室戸半兵衛(仲代達矢)も直接対決が最後まで行われないわりにしっかり存在感を出している。最後の直接対決における血しぶきの演出は賛否両論であるだろうが、最初に視聴したときはかなり印象深く、椿を川に流すシーンと並んでこの映画のなかでも最も記憶に残るシーンとなっている。

 青二才の侍たちのなかでは田中邦衛はもう顔だけで存在感を出している。伊藤雄之助が演じる睦田弥兵衛も最後にしか登場しないが印象に残るセリフを言うし、椿三十郎に手玉に取られてしまう悪の重臣たちもユーモラスだ。映画としての完成度だけならおそらく『用心棒』の方が上だが、こちらはこちらで楽しさが優っていて甲乙つけがたい。