THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『夕陽のガンマン』

 

 

 クリント・イーストウッドおよびリー・ヴァン・クリーフ演じる二人の賞金稼ぎが主人公となっており、ストーリーとしては後者によるジャン・マリア・ヴォロンテへの復讐物語がメインとなっているが、トリックスター的な存在であるイーストウッドリー・ヴァン・クリーフに協力しつつ引っ掻きまわす。

 すごい賞金首をやっつける賞金稼ぎがあらわれたかと思ったらさらに高値の賞金首をやっつける別の賞金稼ぎがあらわれて、やがてふたりは邂逅して、お互いに腕競べをしながら協力しつつも互いに腹の中は明かさずに…という序盤から中盤までの展開、そしてついに二人が本格的に協力してジャン・マリア・ヴォロンテ率いるギャングたちと対決する展開には、「少年漫画」的な熱さや面白さがある。ただし、後半でギャング同士の内輪揉めがはじまったあたりからしばらくは展開がグダグダし過ぎてしまい、ちょっとテンションが下がってしまうところは否めない。ジャン・マリア・ヴォロンテ演じる「インディオ」の悪辣さを描きたかったのであろうが、ここは素直に二人の賞金稼ぎvs大量のギャングたちという構図にするべきであったように思える。

 セルジオ・レオーネの西部劇にはたとえば黒澤明の時代劇にあるような完成度や緻密さは望むべくはないが、その代わり、西部劇という舞台設定は意外と「開けた」ものであり、何が飛び出てくるかわからない面白さがあるとはいえる。様々な人種や出身地域の海千山千なものどもが集まってくるうえ、役者陣が脇役を含めてどいつもこいつも濃くて印象的な顔をしているため、なんてことのないシーンですら妙に印象に残ったりする(私が特にお気に入りなのは、宿屋でイーストウッドが前の客を叩き出すシーンである)。リー・ヴァン・クリーフはともかくイーストウッド演じる賞金稼ぎは悪とも善ともつかないキャラクターになっていることから、物語全体にカオスさがあってよい。一方で、中盤における帽子の撃ち合いシーンや最後の決闘シーンやギャングたちの死体を数えるシーンなど、キメるべきところではしっかりキメた演出をしてくれるのもさすがだ。

 学生時代にこの作品や『続・夕陽のガンマン』『夕陽のギャングたち』を観てときめいてそのほかにもマカロニウェスタンをいくつか観たが、他の作品は派手さや滑稽さを意識し過ぎておりセルジオ・レオーネの作品にあるようなオリジナリティや美学のようなものは感じられなかった。単なるイロモノでゲテモノの「B級」に過ぎない作品が大半だったのだ。その点、レオーネの映画作品は明確に「A級」を志向しているものだといえる。B級映画を見るなんて人生の無駄でしかないので、映画を作るならA級を志向してくれなくちゃ困るのだ。