THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ブギーナイツ』

 

ブギーナイツ (字幕版)

ブギーナイツ (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

『マグノリア』に引き続きポール・トーマス・アンダーソン監督の作品を鑑賞したが、こちらはいまいち楽しめなかった。当時の音楽を有効的に使いながら描かれる70年代後半〜80年代前半の風景は見ていて楽しいものだ(中盤に主人公を中心として登場人物たちが一同に踊るディスコのシーンはかなり良い)。時代は多少違えど、往年の映画業界を舞台にした群像劇という点では『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を思い出させるし、BGMやカメラ回しの感じにはデヴィッド・フィンチャーの『ゾディアック』も思い出した。

 しかし、ポルノという特殊な業界を舞台にしているために、登場人物への共感がいまいち抱きづらいのがネックだ。主人公も周りの人物たちについても絶頂期は物語の中盤に訪れて、そこからの転落とちょっとした再生が描かれることになり、このプロット自体はまあ標準的であるがそれなりに感じるものはある。とはいえ、「ポルノ産業でうだうだしていたらそりゃそのうち落ちぶれるだろ」と思うところはあるし、所詮はポルノスターなのだから主人公に対して憧れを抱いたり感情移入をしたりすることも難しい。女性陣についても同様だ。ドン・チードルフィリップ・シーモア・ホフマンウィリアム・H・メイシージョン・C・ライリーが演じる脇役陣は魅力的で印象的なのだが。主演のマーク・ウォールバーグが役者としてあまりパッとしない存在である、という点が大きいだろう。

 そして、『マグノリア』は3時間という時間を感じさせない作品であった…というのは言い過ぎであったとしても「この作品なら3時間かけてもまあ許せるかな」と思える程度の内容ではあったが、『ブギーナイツ』の2時間半はあまりにも長過ぎた。ところどころ視覚的に魅力的なシーンはあるのだが、そうではない単調で凡庸な場面も多いために、かなり間延びして感じるのだ。『インヒアレント・ヴァイス』もかなり長く感じられたが、主演のホアキン・フェニックスや助演のジョシュ・ブローリンの魅力と不条理な世界観というフックがあるぶん、だいぶマシだった。

 ところでアメリカ発のポルノなんてほとんど見る機会がないのだが、ポルノ産業を舞台にしているわりにかなりカラッとしているのはいかにもアメリカっぽいと思った。終盤で落ちぶれた監督が自分がこれまで否定していた「素人もの」を撮影しようとする場面があるが、それですら日本のポルノに付きものなウェットさや陰湿さは感じられなかった。だからこそ、ポルノ業界という舞台設定のわりにギャング映画などの他の「成り上がりもの」と大して印象が変わらないというところがあったかもしれない。あと、出てくるポルノ女優たちがとにかくケバい化粧をしてばっかりで気持ち悪かった。それに登場人物たちがどいつもこいつもコカインなどのドラッグにハマるしちょっと売れたかと思うとすぐに調子に乗って車を買ったりするのだが、こういう連中が時代の流れで落ちぶれたとしても同情できないなという気持ちが強い。アメリカ映画の登場人物は出世したかと思うとすぐに女と性交しまくるかドラッグをやりまくるかその両方かであり、動物的でアホではないかと思わされることが多い。まあ実際の世界の成り上がり者やセレブを見ていてもそんな連中ばっかりだという気もするのだけけれど。