THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『あなたを見送る7日間』

 

あなたを見送る7日間/This is Where I Leave You (字幕版)

あなたを見送る7日間/This is Where I Leave You (字幕版)

  • 発売日: 2015/04/22
  • メディア: Prime Video
 

 

 父親の死去に伴い行われることになったユダヤ教の喪の儀式である「シヴァ」のために実家に集まった、男三人女一人の四人きょうだいとその母親、配偶者や恋人たちとの群像劇。

 ところどころにユダヤ教ならではのシーンがあるし、きょうだいたちに舐められてバカにされっぱなしの同年代のラヴィのキャラクターは印象的だ。とはいえ、ユダヤ教やシヴァの要素そのものが作品のメインではない。また、「父親の死去」がきっかけの物語であるが、肝心の父親にスポットが当たることは終盤のごく短い回想描写を除いてはほぼない。基本的には、四人きょうだいたちそれぞれが抱える現在の悩みが話の主軸となる。

 次男である主人公(ジェイソン・ベイトマン)は父親の死の当日に妻が間男と性交している現場を目撃してしまっており、離婚しようかと思っていたら今度は妻の妊娠が発覚する。長男(コリー・ストール:『アントマン』の敵役の禿男)夫妻は不妊に悩まされており、末っ子の三男(アダム・ドライバー)は母親に近い年齢の女性と付き合っているがいつまでも子供っぽく無責任でふざけているプレイボーイである。娘(ティナ・フェイ)も現在の恋人と問題を抱えている。母親(ジェーン・フォンダ)は老婆と言える年齢なのに未だに年甲斐もなく色気付いていて豊胸手術をしたり亡き夫とのセックスについて子供たちの前で詳細に語ったり子供たちの性経験にも口出ししてくるなどと気色が悪い。

 登場人物はみんな中年以上の年齢なのに、上述したようにどいつもこいつも性的な面で問題があったり悩みを抱えていたりする。コメディシーンでも下ネタがよく出てくる。アメリカ映画は登場人物の悩みといえばセックス、ギャグといえば下ネタ、ということが多くてうんざりするところがあるしアメリカ人はセックス以外に考えることがないのかと呆れさせられる。実際、この映画は登場人物のキャラクターもそれぞれのエピソードの起承転結もいかにもアメリカ映画のテンプレ的な内容で、ユダヤ教要素がなければかなりありきたりで凡庸な作品になっていることは否めない。

 そんななかで救いとなっているのが末っ子を演じるアダム・ドライバーの存在感だ。ふざけていて茶目っ気が豊富で無責任なキャラクターなのだが、これがアダム・ドライバーにピッタリなのである。彼が同年代のラビをいじったり兄弟とじゃれあう描写は実に活き活きとしていて、見ているだけで楽しい。他の人の感想を調べてみてもアダム・ドライバー目当てでこの映画を見ている人が多いようだが、実際、アダム・ドライバーのファンなら必見の作品であるだろう。ついでに言うと、三人の兄弟に振り回されながらも母親代わりになったり時には対等な立場になったりする娘のキャラクターもなかなか良かった。