THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『マイ・ライフ、マイ・ファミリー』

 

マイ・ライフ、マイ・ファミリー (字幕版)

マイ・ライフ、マイ・ファミリー (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 派遣社員として働きながら戯曲作家としての成功する機会を待ち望んでいる妹(ローラ・リニー)が主人公で、戯曲研究者としての教職に就いてはいるが作家としての道は諦め気味な兄(フィリップ・シーモア・ホフマン)が準主人公となっている。アリゾナで後妻と暮らしていた父親(ウェンディ・サヴェージ)の認知症が本格化して後妻も死亡してしまい、父親を老人ホームに入れる云々の処置をめぐって久しぶりに兄妹と父親が三人揃ってニューヨーク近辺にて再会して…という家族もののドラマである。

 兄も妹も未婚であり近いうちに母国に帰る外国人女性や妻子ある中年男性と将来性のない恋愛関係を結んでしまっていて、また共に同じ戯曲の道を志しながら現在の成功の度合いが異なっており…などと、キャラクター設定や兄妹の関係性の描き方が絶妙だ。父親役の認知症の演技もリアリティがあってよい。子供の頃には虐待気味の家庭ではあったがそれでも父親に対する情を失っているわけではなくむしろ積極的に父親にとってより良い終の住処を探したり、老人ホームに入居させること自体について罪悪感を抱いてしまう…などの兄妹の感情描写にもかなりリアリティを感じられる。

 また、「父親の認知症」というテーマと同時に、中年に差しかかっているのに未だにアダルトチルドレン的な兄妹(特に妹)の今後の人生がどうなるのか、というところも描かれている。外面や世間体を気にしすぎておりそのためにちょっとした虚言癖を持っていたり現実を軽視して夢見がちであったりと問題点も多く持っている一方で、認知症となった父親や世話をしている猫や犬に対する優しさや面倒見の良さもある。妹の前ではしっかりしている風を装ってリアリストぶるが一人になると途端に繊細で打たれ弱い側面が出てしまう兄のキャラクター性も良い。また、猫や犬などの動物の描き方や扱われ方には監督の動物に対する理解や愛情が伝わって好感を抱けるし、物語やキャラクターを描写するうえでも効果的になっている。

 終盤に主人公の戯曲がようやく公演されることになって練習風景を兄が視察するシーンでは『フランシス・ハ』を思い出した。

 全体的には地味な物語であるが、アリゾナの青空を強調しながら中年女性たちのダンスを映すオープニングはかなり印象的であるし、犬と主人公が一緒に走るエンディングのシーンにはかなりの爽快感がある。「父親の認知症」というテーマを描きながらも、それだけに留まらない文学性や私小説性が感じられるのだ。地味な作品ながら、何度も見返したくなるような佳作になっているといえよう。