THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ゲティ家の身代金』

 

ゲティ家の身代金(字幕版)

ゲティ家の身代金(字幕版)

  • 発売日: 2018/09/05
  • メディア: Prime Video
 

 

 リドリー・スコット監督作品。石油王であるジャン・ポール・ゲティ(クリストファー・プラマー)の孫、ジョン・ポール・ゲティ3世(チャーリー・プラマー)がイタリアで誘拐されてしまう。誘拐犯のグループは身代金1700万ドルを要求して、母親のゲイル(ミシェル・ウィリアムズ)はゲティに身代金を支払うよう求めるが、ゲティは「14人も孫がいるのにいちいち身代金を支払っていられない、一人に払ってしまうと他の孫も誘拐される可能性もあるし」と拒否してしまう。また、ゲティ家に雇われたエージェント(マーク・ウォルバーク)や警察も「狂言誘拐だ」と見なして事件当初はゲイルの言うことに取り合わない。しかし、事態の深刻さはやがて明らかになっていき、ついにはジョンの切り取られた耳が新聞社に送られてきて…。

 この映画の最大のフックはジャン・ポール・ゲティの人間性であり、アラブの人間と交渉したりタンカーを製造したりして石油王へとのし上がっていく様を短く描いた序盤のシーンは特に印象的だ。孫に対してそれなりの愛着を示していた彼であるが、年齢を経るにつれて資産に囚われていくようになり、その人生はどんどん空虚なものになっていく。誘拐されたジョンの母親であるゲイルが対決するのは、誘拐犯たちではなくゲティであるのだ。当初はゲティ側であったマーク・ウォルバーグがゲイルの側に寄っていき、ついにはゲティを見放すという構成は見事だ(このエージェントのキャラクター性は『HUNTER X HUNTER』の船編に出てくるバビマイナをちょっと連想させた)。「私には物の真の値打ちがわかるんだ」とか「前世は皇帝だった」とかと孫や義娘に言ったりしてカリスマ性をアピールしていたゲティの化けの皮がだんだんと剥がれていく描写には意外性がある。

 また、誘拐されながらも知恵を凝らして脱出をしたり(結局その脱出は失敗してより手痛い仕打ちを受けるが)、誘拐犯の一人(ロマン・デュリス)に感情移入されて最後には助けてもらうことになる、ジョンの描写もスリリングで面白い。

 実話を基にした誘拐ものでありながら、誘拐された家族同士の対決がメインというなる独特のストーリーになっているために、展開の予想が付かないところが見事だ。ジョンと誘拐犯たちのパートでも地味ながら意外な展開が何度か出てくるのも良い。空虚で異常な金持ち連中に対抗して母性やヒューマニズムを体現するゲイルのキャラクターもしっかりしたものだ。群像劇的なヒューマンドラマとエンタメ性の両方を兼ね備えた逸品である。さすがは『オデッセイ』の監督と言うべきだろう。