THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ファーゴ』

 

ファーゴ (吹替版)

ファーゴ (吹替版)

  • 発売日: 2015/10/11
  • メディア: Prime Video
 

 

 雪の積もるミネソタ州ミネアポリスにて、妻を狂言誘拐して舅から金をせびろうと思いついた自動車セールスマン(ウィリアム・H・メイシー)は知人のつてで紹介してもらった犯罪者たち(スティーヴ・ブシェミピーター・ストーメア)に誘拐を頼む。しかし、いざ妻を誘拐した犯罪者たちは、車を調べようとした警官を射殺してその場面をたまたま目撃した一般人たちも殺害してしまう。妊娠中の女性警察官(フランシス・マクドーマンド)は事件の捜査に乗り込むが、その間にも死人は増え続けていく…。

 

 田舎町の日常風景が描かれるのと並行して、その田舎町で人がぽんぽんと意味のなく死んでいく「不条理さ」が衝撃だ。タイトルとなっている「ファーゴ」は地名だが映画のなかでこの土地が舞台となる場面はほとんどなかったり、Wikipediaによると「冒頭に実話を基にしている旨のテロップが映るが、これも演出の一つで、実際には完全なフィクションである」らしいなど、人を食ったような演出も効果的である。映画の本編とは関係ないが途中で出てくるミミズのシーンや、終盤において木材破砕機に人間の死体が突っ込まれて白い雪面に赤色の血と肉がまき散らされているシーンなど、視覚的に印象の強いシーンも多い(私がこの映画を前に見たのは13年前であるはずだが、それでもこれらのシーンはしっかり覚えていた)。

 一応の主人公である妊婦の警察官が登場するのは物語の中盤からであるし、彼女が犯罪者たちと接触するのは最後の最後だけだ。しかし、「守られるべき日常」や「善性」を象徴する彼女のキャラクター性は、異常な犯罪者よりもむしろ印象的で効果的である。いまから思うと、同じコーエン兄弟の『ノーカントリー』においても「悪や異常の世界」と「善や日常の世界」のそれぞれを代表する人物と、その間に立って破滅していく人物とが描かれていたが、これは『ファーゴ』でも既に描かれていた構図をさらに深化させたものであると言えるのだろう。