THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『横道世之介』

 

横道世之介

横道世之介

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 1980年代、九州の田舎から法政大学に入学して上京してきた横道世之介横道世之介)と彼が東京で知り合う人々。そして、世之介と知り合った人々が当時のことを2000年代の後半(?)になって懐かしく思い出す場面も挿入される。

 なんてことはない「青春もの」であり、登場人物に関してもリアリティというものは全くない。世之介は特に技術も見識もコネクションもあるわけではないがお人好しさと素直さと明るさと快活さが取り柄っといったいかにも日本の青春ものフィクションの主人公みたいなキャラクター性をしているし、世之介が付き合うことになり映画後半のエピソードの大部分で登場する与謝野祥子(吉高由里子)はかなり可愛らしい性格をしてはいるのだが漫画作品に出てくる「お嬢さま」キャラクターの典型的なそれだ。世之介と祥子の恋愛描写は観ていて微笑ましく楽しめるものではあるが、共感とか感情移入のそれではなくて、漫画やアニメを見ている時のような感覚になる。

 とはいえ、ここまでフィクションでアニメ感覚に徹した青春ものな作品もなかなか見ることがないで、楽しんで鑑賞することができた。アニメっぽい作品らしくエピソードも豊富でテンポも良いところが素晴らしい。何より、浮気なり不倫なりの見ていて嫌な気分になる要素が出てこないのがよかった(時間経過後の場面から、世之介と祥子の恋愛は途中で破綻していることは察しがつくようになってはいるが)。

 また、1980年代の東京の町並みを再現した背景も素晴らしく、「ここは新宿」「ここは原宿かな」と推測しながら見る楽しみもある。祥子が登場するまでのエピソードはまだ現実味があるというか「当時ならそういうこともあったんだろうな」と思える許容範囲内なので、多少はリアリティをもって楽しむこともできる。特に、世之介が押しかけ女房的な形で友人になった同性愛者(綾野剛)のエピソードは青春感や友情感が出ていてよかったし、朝倉あき黒川芽以が演じる女性キャラクターも魅力的だった。なにより、舞台が早稲田や慶應ではなく法政大学というところがいい。そもそも東京の大学生ものは早稲田が舞台であることが多過ぎて辟易しているのだが、法政大学程度であればコンプレックスを刺激されることも少ないので多くの人にとって「ちょうどいい」感じで見れるものだろう。