THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『彼女がその名を知らない鳥たち』

 

彼女がその名を知らない鳥たち

彼女がその名を知らない鳥たち

  • 発売日: 2018/04/25
  • メディア: Prime Video
 

 

 監督は白石和彌。大阪に住む十和子(蒼井優)はお人好しで一途だが粗暴で下品である陣治(阿部サダヲ)と同居していた。陣治はトワ子に惚れており、彼女に生活費を与えたり家事をしたり性的奉仕もしたりと一方的に尽くしているのだが、十和子は陣治のことを軽蔑しており身体を許すこともない。そして、DV男でもあった元彼の黒崎(竹野内豊)のことを引きずって悶々としていた。そして、妻子持ちの美青年である水島(松坂桃李)に一目惚れして不倫関係になってしまう。だが、突如として家を訪れた刑事から黒崎が五年前に失踪している事実を聞いて、十和子は最後に黒崎と会った後の陣治の不審な言動を思い出して…。

 Wikipediaによると原作者はミステリーやサスペンス系の人らしく、それも「イヤミス」系の人であるようだ。たしかに、この映画もオチまで観てしまうと、キャラクター設定の不自然さや浅薄さ、明かされる真相のご都合主義さや凡庸さがいかにも「イヤミス」系だなという感じはする(「イヤミス」系作品というのは書いている本人やファン層の読者たちは「人間の汚れていてドス黒い本性を白日のもとに暴露して真実を直視した芸術だ」というくらいに思っているフシがあるが、実際のところは彼らや彼女らの粗雑な世界観や浅薄な人間理解や卑小な人格を反映したに過ぎないものである。湊かなえとか。)。

 しかし、オチはしょうもないとはいえ、この映画はキャスティングが優れているおかげでなかなか充実した作品となっている。特に、口が悪くてクレーマー気質で同居人にひどい扱いをしてDV傾向のある浅薄なイケメンにフラフラと惚れてしまう女主人公を演じる蒼井優が素晴らしい。美人であってもこういう風な性格の悪さと被害者体質を兼ね備えている女性は実際にもいるものだが、蒼井優は見事にその存在にリアリティを与えている。素朴な塩顔から気の強い関西弁を繰り出す様子は魅力的だし、こう言っちゃ悪いがいかにもDVの被害者になりそうな雰囲気も醸し出せている。性的なシーンではしっかりエロいところも良い。

 阿部サダヲはセリフはちょっと棒読みがすぎると思うが、どんなにないがしろにしても女主人公に尽くす一途さやそのなかに含まれている狂気的な感じは出せていたと思う。なにより、見た目しか取り柄がなく決め台詞すら借り物の言葉しか吐けない軽薄で自己中心的な浮気男に松坂桃李をキャスティングしたところがよかった、松坂桃李はそういう見た目をしているからだ。

 また、舞台が大阪で登場人物の多くが関西弁なところも、この映画における情緒的で温度の高い恋愛描写にマッチしている。地味めの見た目をした女主人公がDV傾向のあるイケメンにフラフラと惚れてしまうところは『寝ても覚めても』を思い出したが、そういえばあれも大阪の話だった。たしかに大阪の男は東京の男よりもさらにDV傾向が高そうだという気はするし、暴力的な男性に惚れてしまう女の数も多そうな気がする。また、DVの被害者である女主人公のことを決して肯定的に描写せずむしろダメ人間と描いているところは、良くも悪くも日本映画ならではという気はする。