THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『アイアンマン3』

 

アイアンマン 3 (吹替版)

アイアンマン 3 (吹替版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

「アイアンマン」シリーズは一作目は完成度が高いといえどさほど面白いとは思えない作品だったし、二作目は完成度も面白さもない凡作だ。そして、三作目の内容も相当ひどい。「キャプテン・アメリカ」シリーズや「マイティ・ソー」シリーズには二つか一つかは名作があるのに比べても優れたところのないシリーズであると思うし、それはひとえに主人公のトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)のキャラクター設定が災いしているのだろう。「自信家で傲慢で皮肉家であり、真っ直ぐな正義心は持っていないが、責任感と自己犠牲の精神は備えている」という彼のキャラクター設定は、うまく扱えれば優れた作品になるだろうが、『アイアンマン』3部作ではついぞ扱いきれなかった。だいたいは『1』と『2』の監督のジョン・ファブローのせいだと思う。彼自身の軽薄な作家性とアイアンマンというキャラクター自体に伴う軽薄さがマッチし過ぎていて、深みも捻りもない凡作シリーズを決定づけてしまったのだ。また、『3』の監督のショーン・ブラックについても『ナイスガイズ!』は良かったが『プレデターズ』は大味もいいところな凡作で、やっぱり才気が感じられるような監督ではない。

 学会の場でトニーに冷たく扱われたことによってふてくされて悪の道に走ることになったアルドリッチ・キリアン(ガイ・ピアース)が、なんか身体を熱くして爆発させたり火を吹いたりすごい運動ができたりするようにする遺伝子改造技術を発達させて他人を人間爆弾にしてテロ行為の手段として用いたりしながら大統領を誘拐したりして権力の掌握を企みつつ怨敵であるトニーの家を爆破したり恋人のペッパー・ポッツ(グウィネス・パルトロー)の嫌がらせをしたりするがやっつけられる、というお話。主人公は最初はトラウマにうなされているが途中で家も財産であるスーツも失って田舎町で少年と出会って裸一貫からやり直したりして初心を取り戻したりする。また、ヒロインであるペッパーは遺伝子改造技術のおかげですごい力を手に入れる(でも『アベンジャーズ/エンドゲーム』で彼女が満を待して戦場にあらわれた際にもその力が活かされることはない)。

 いろいろあった末に主人公は恋人のためにヒーロー活動を辞めることを約束するが、そのあとの『アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン』では当然のごとくアイアンマンのままである(アイアンマンを辞めてしまったらアベンジャーズには呼ばれない)。つまり、この映画のオチ自体が、続く作品であっという間に翻されてしまうのだ。ヒロインとの関係の破綻も関係の修復も「アイアンマン」シリーズ本編ではない「キャプテン・アメリカ」や「スパイダーマン」や「アベンジャーズ」シリーズで描かれることになるし、父子関係の描写だって三部作よりも他シリーズにおいての方が充実している。ついでに言うとアイアンマンの死が描かれるのも別作品だ。つまり、アイアンマンの物語は、彼が主人公であるシリーズとは関係のないところで深まって、関係のないところで完結してしまうのだ。『2』や『3』は彼のキャラクターを深めたり展開したりするという貢献をほとんどなしていない。これでは彼を主人公とした三部作そのものの存在意義がなくなってしまう。

 また、悪役が悪の道に走ったきっかけが主人公であること、そして悪役はかわいそうな存在でありながらも彼のなしている悪行が洒落にならない範囲の極悪な行いであるために和解や改心の余地もないので悪役を抹殺することでしか物語の始末のつけようがないというところが、この作品を後味の悪いものとしている。後の『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』、そして『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』でも、悪役が誕生するきっかけはトニー・スタークの傲慢さであった。このマッチポンプ感には誰だってうんざりするし、悪役自身を魅力のない小者にする効果もあれば主人公側にも悪の誕生の責任を負わせて爽快感のない物語にするという効果もある。「主人公に悪役を誕生させるきっかけがあることにすれば因縁も描きやすいしドラマも作りやすいだろう」という安直な判断のおかげで、このようなしょうもない物語が量産されることになるのだ。ここら辺はほんとうにハリウッドの悪癖だと思う。

 主人公が初心からやり直してアイアンマンスーツを修理したり「整備士」としての志を取り戻すシーンには、それなりの熱さがある。量産され過ぎて半ばおもちゃと化したアイアンマンスーツのギミック性を活かしたシーンにも、それなりの創意工夫が感じられる。一方で、たとえば飛行機から放り出された乗客たちをアイアンマンが助けるシーンの前時代感やしょうもなさはひどいものだ。世間的には評判の悪い『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』は少なくとも真面目な作品であったしナタリー・ポートマンをはじめとするキャラクターの魅力や愛着もあったが、この作品にはそういう良さは微塵も感じられない。MCU最大の汚点はこの作品であるだろう。