THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『マイティ・ソー バトルロイヤル』

 

マイティ・ソー バトルロイヤル (字幕版)

マイティ・ソー バトルロイヤル (字幕版)

  • 発売日: 2018/01/10
  • メディア: Prime Video
 

 

 一作目二作目における壮大で大げさな神話劇風な物語や主人公とナタリー・ポートマンとの間のラブロマンスや「神々の世界と地球界との交流」といった要素を大胆に切り捨てて、北欧神話というモチーフは維持しつつも(英語原題の通り本作では「ラグナロク」が重要なモチーフとなっている)SFというかスター・ウォーズ的なスペース・オペラの要素、そしてコメディ要素やMCU作品全般に対するセルフパロディを増し増しにした作品だ。前作までとは作風がほとんど真逆なくらいになっているが、荒唐無稽で陳腐な設定であるのに深刻ぶって物語を展開していた過去作の滑稽さがいい方向に作用して、セルフパロディ要素はかなり笑えるものとなっている。とはいえ、一作目や二作目の雰囲気が好きだった人や、私のようにナタリー・ポートマンとの恋愛要素が気に入っていた人にとっては馬鹿にされたような気がしてちょっと神経が逆撫でされるところがなくもないのはたしかだ。おそらくキャスティングの都合ではあるのだろうが、あんなにイチャイチャラブラブしてチューばかりしていたナタリー・ポートマンとの恋愛要素が冒頭で「ソーがフラれた」という情報がモブキャラによって提示されてそれで終わり、というのはあんまりである(だからこそ、後の『アベンジャーズ/エンドゲーム』でナタリー・ポートマンがサプライズ的に出演してくれたのは嬉しかった)。

『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』で独特のコメディセンスを発揮して、『ジョジョ・ラビット』ではコメディ要素とシリアス要素や感動要素とのバランス感覚が見事であったタイカ・ワイティティ監督であるが、本作ではちょっとコメディ要素の方に振り過ぎている感がなくはないものの、主人公であるソー(クリス・ヘムズワース)がどん底から再起するシーンや土壇場で覚醒して無双するシーンなど、盛り上げるべきところではきっちりと盛り上げてくれる仕上がりとなっている。一作目や『アベンジャーズ』においては敵対関係であったロキ(トム・ヒドルストン)との共闘についても、すっかりロキの手口について熟知してしまってこれまでは手玉に取られていたソーがむしろ一枚上手をいっている、という描き方がキャラクターの成長を感じられてなかなか楽しいものだ。ハルク=ブルース・バナー(マーク・ラファロ)はロキと並んでコメでリリーフとして活躍するし、『アベンジャーズ』シリーズではほとんど関わりがないように見えたソーとハルクとの交流も新鮮で見ていて楽しい。新キャラのヴァルキリー( テッサ・トンプソン)も、元々は優秀な女性戦士であるがすっかりやさぐれてアル中になっているという設定であり、男勝りな人が多いMCUの女性陣のなかでも特に豪快で爽快な性格をしている良キャラクターだ。

 一方で、ボス敵であるヘラ(ケイト・ブランシェット)は実力は強大であってもテンプレ的な「悪の化身」というキャラクター性をしており面白みはない。序盤でソーに撃破された炎の化身スルトをヘラを倒すための最終手段として再活用する(「ラグナロク」の単語も最後の展開へのミスリーディング的な布石となっている)、という展開はかなり上手なものだが、ヘラのキャラが立っていないこともあってそこばかりが印象に残ってしまう。コウモリ的な立ち位置を取りヘラにへりくだっていたスカージ(カール・アーバン)が意を決して正義の側に立ってヘラに立ち向かうシーンも、取ってつけたようなテンプレ的な描写であるので白けてしまう。浅野忠信をはじめとするウォリアーズ・スリーが事務的に殺害されてしまう描写もひどいものだ。その代わり、新たに登場したグランドマスタージェフ・ゴールドブラム)やコーグ(タイカ・ワイティティ)はかなり良いキャラクターをしているのだが、前作までのキャラクターがないがしろにされて新キャラクターばかりが目立つというのはどうかと思うところはなくもない。オーディンアンソニー・ホプキンス)の退場の仕方も唐突だし。ヘイムダルイドリス・エルバ)は相変わらずおいしい立ち位置であるが、その彼も『インフィニティ・ウォー』の冒頭で退場してしまうし…。

 面白いことは間違いない作品であり、面白さの質は『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』シリーズと類似しているが、セルパロディネタが豊富なぶんこの作品の方が笑える度合いは上回っているだろう。ただし、熱血要素にせよコメディ要素にせよ、これまでの『マイティ・ソー』シリーズ二作品ありきのものであって、過去の作品を踏み台にしなければ出せない面白さなのだから、ある意味では「ずるい」作品であることは否めない。単体の作品としてのクオリティはMCU作品や映画一般のなかでもかなり高い方なのではあるが、ちょっと素直には褒めたくない作品だ。