THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ブラックパンサー』

 

ブラックパンサー (字幕版)

ブラックパンサー (字幕版)

  • 発売日: 2018/04/27
  • メディア: Prime Video
 

 

 この作品はMCUのなかでも特に海外では大ヒットした作品であり、興行収入はヒーロー全員集合の『アベンジャーズ』を除けばトップクラスのはずだ。一方で、日本においては、ヒーロー映画やエンタメ映画の単体としてあまり高く評価されなかったように思える。

 主人公のティ・チャラ=ブラックパンサーチャドウィック・ボーズマン)は「ワカンダ」という架空のアフリカ国家の王子であり、「アフリカ」や「アフリカ系」という要素に特化してフィーチャーさせたところがこの作品の特徴だ。登場人物も、メインの敵役であるエリック・スティーブンス=キルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)はワカンダにルーツを持つアフリカ系アメリカ人であるし、ヒロインのナキア(ルピタ・ニョンゴ)や主人公をサポートするオコエダナイ・グリラ)もシュリ(レティーシャ・ライト)もみんなワカンダ人だ(また、味方チームの大半が女性であることもこの作品の特徴だ)。白人は味方側としてはCIA捜査官のエヴェレット・ロス(マーティン・フリーマン)、敵役としては武器商人のユリシーズ・クロウ(アンディ・サーキス)が登場するが、どちらも印象に残るいいキャラになっているとはいえ物語においては部外者的な立場の脇役である。

「アフリカ系」という点が物語のテーマにも大きく絡んでいて(特に敵役であるキルモンガーの動機面)、そのために「ポリコレ」と絡めて失敗を論じられることも多いが、作品のテーマである「フェミニズム」という要素がヒーロー映画としての作劇に明確な悪影響をもたらしていた『キャプテン・マーベル』と比べると、この映画における「アフリカ」「アフリカ系」という要素は味付けやモチーフという点で概ねよく機能していたように思える。「王位継承をめぐる争い」という王道だがあまりに古臭いストーリーを、社会派的な要素を絡めさせることによって21世紀という時代設定でありながらも違和感なく展開させられるというところが特に上手いなと思った。

 ワカンダの描写はオリエンタリズムが感じられるくらいに「アフリカ」要素を強調し過ぎていた気がするが、世間的に「アフリカに対するリスペクトがなされている作品」として見なされており等のアフリカ系の人々が歓迎しているのなら問題ないのだろうし、地球を舞台にしたものにせよ宇宙を舞台にしたものにせよこれまでの他のMCU作品やアメコミ映画・アクション映画全般においても見たことのないような世界観や絵面が堪能できるのはこの作品の明確な長所だ。ワカンダ国の超技術や「これまでは世界からその存在を隠し通していました」という設定はご都合主義的な気もしたが、基本的には国内における内紛がメインのストーリーであるのでそこもあまり気にならなかった。

 主人公の王位継承とそれに異を唱える親類者の対立、という点では『マイティ・ソー』と類似しているが、社会派的な要素の有無にくわえて、豪快で型破りなソーと生真面目なティ・チャラという正反対な主人公のキャラクター性の違いによってうまく差別化できている。ただし、ティ・チャラがキャラクターとして普通過ぎてフックがなく、魅力に乏しいところはこの作品の大きな弱点となっている。その代わりに、キルモンガーはかなり印象的な悪役となっているのだが(また、ユリシーズ・クロウのふてぶてしさも、噛ませ犬的な中ボスには類を見ないレベルで印象に残る)。MCU作品は主人公のキャラを立てることに腐心するあまりヴィランの描写がなおざりになりがちという悪い傾向があるが、この映画は珍しくヴィランのキャラが立っているわりに主人公のキャラが薄い作品であるのだ。

 アクションシーンには特筆すべきものがないし、終盤におけ集団戦も「SF的な超技術を用た、アフリカの部族同士の争い」という視覚的な特徴があるとはいえ、単調な感じは否めない。メインのストーリーも敵キャラの濃さを除けばそこまでそそられるものはなく、「オリジンもの」にありがちな退屈さやテンプレ感が付きまとってるとはいえる。「傑作」や「名作」とは言えないが「凡作」と酷評されるほどでもない、「良作」や「佳作」といった立ち位置の作品であるだろうか。