THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『SHAME -シェイム-』

 

SHAME−シェイム− (字幕版)

SHAME−シェイム− (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 30代の男性の主人公(マイケル・ファスベンダー)は性依存症を抱えているが、これまでは周りにその性的異常者っぷりがバレることなく静かで安定した生活を営んでいた。しかし、主人公の住む家に情緒不安定な妹(キャリー・マリガン)が転がり込んできたことをきっかけに、主人公の生活は徐々に歯車がズレて不安定なものになり、その性依存症も徐々に周りにバレていくようになる…。

「性」をテーマにした映画であり、実際にセックスシーンや乳房や性器も多数登場するのに、全くエロくないのが素晴らしい。「性」をテーマにした作品はアダルト作品でなくとも、ついつい園子温的なドギツくて下劣で虚仮威し的な作品になってしまいがちだが、この映画はかなり静謐なトーンを貫きながらも、「性」に振り回されて苦悩する主人公の姿をしっかり描けている。

 主人公の妹は他人との繋がりを(肉体的にも精神的にも)求める人物であり、情緒不安定な人物ではあるがセックス自体は彼女にとっては自己破壊的な作用をもたらさないようだ。一方で、自宅でも職場でもヒマさえあれば自慰をして毎晩のように行きずりの女と寝てしまう主人公にとっては、性やセックスは明らかに人生を破壊する「毒」として作用している。家には大量のAVとアダルトグッズがあるし、妹が家にいるというのにエロチャットをするし、職場で使用するPCのハードドライブにもエロ動画がたんまり保存されている始末だ。他方で、職場の同僚女性と親密な関係になってコトに及ぼうとした時には勃起せず、行きずりの女や商売女にしか興奮できないというところも悲しい(終盤ではゲイクラブに行くシーンもあるのだが、それはともかく)。

 シーンとしては、自慰をしているところに妹が帰ってくるシーンやエロチャットを妹に見られてしまうシーン、エロ動画を会社のPCにたっぷり保存していることが上司にバレて取り繕うシーンなどが面白かった。また、電車のなかで美人の人妻と目が合い、誘い誘われの関係になるシーンが冒頭とエンディングとで繰り返されるところもなかなか印象深い。男性である主人公の一人称視点からの描写なので、相手がほんとうに主人公を性的に誘っているかどうかがわからない(なんでも性的に見えてしまう主人公の思い込みかもしれない)、というところがミソだ。

 わたしも男性であるが、まだ年が若いということもあってか、この作品の主人公が感じるような苦悩はほとんど経験していない。そもそもエロ動画やアダルトグッズに対する執着や探究心があまりないし、恋愛関係にある女性以外との性的行為は楽しく思えないし、というタイプである。わたしの周りにもそういう男性が多い一方で(エロ動画や同人誌にやたらと執着する人はいるが)、知り合いの知り合いというくらいになると、この映画の主人公のように自己破壊的な性行為を繰り返す人もいたりする。主人公はマイケル・ファスベンダーだけあってセクシーなイケメンだし初対面の女性もホイホイと彼についていってセックスしてくれるが、おそらく、主人公がさほどセクシーでもイケメンでもなく女性を口説くのに苦労するタイプであったらそもそもここまでの性依存症にはなっていなかっただろう(商売女とのセックスにも夢中になっているが、それだって、主人公が稼ぎの良いエリートでありいつでも上玉の商売女を買える立場にあるからだ)。

 自分にそういう要素や経験がほとんどないために主人公の苦悩に共感したり理解することは難しかったが、会話シーンや画面の絵面などが映画として普通に一定レベル以上のクオリティに達していることもあって、知らない人の悩みを追体験する映画として楽しめた。この種の文学的で一人称的な映画というものはあまり数がないものだし、その多くは「現実と狂気の境界が曖昧になる」的な方向に走ったりしてしまうものなので、地に足の着いたリアリティラインで展開するこの映画はその点でも貴重だ。