THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『プライベート・ライフ』

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 タマラ・ジェンキンス『マイ・ライフ、マイ・ファミリー』から10年経って製作した作品。不妊治療に取り組むレイチェル(キャスリン・ハーン)とリチャード(ポール・ジアマッティ)夫婦が主人公であり、卵子提供をして代理出産をすることを承諾した義理の姪のセイディ(ケイリー・カーター)も重要なサブキャラクターである。

 

 テーマがテーマであり、結局はハッピーエンドにならない展開なうえに、くたびれた中年夫婦が主人公であるので、全体的に重苦しい作品であることは否めない。序盤においてレイチェルの尻に妊娠促進のための注射をリチャードが打ってからセックスするシーンなど、「妊活」に関わる生理的にキツくて痛々しい画面が連続する。ただし、典型的な「自意識過剰で口達者だが実力は追いついていない芸術家思考の若者」キャラクターであるセイディのおかげで、中盤には多少の軽さや明るさも付与されている。センスの良い音楽も救いとなっている。

『マイ・ライフ、マイ・ファミリー』と同じく「家族」にまつわる深刻なテーマを真っ向から描いた作品であり、また登場人物たちが芸術系の裕福なインテリ連中であることも『マイ・ライフ、マイ・ファミリー』と一緒だ。たぶん監督が自分の人生を反映させるためにこういう設定にしているのだろう。ちょっと嫌味な感じがする設定だとは思うのだが、ウディ・アレンノア・バームバックほどの嫌味さも感じないので、まあ許容範囲だろう。

 

 結婚すらしていないし子供が欲しいという気持ちも特にないわたしにとってはなかなか共感しづらいテーマではあるが、それでも「リアルそうだな」という感じは抱ける。人物描写もなかなか優れているし、養子縁組の詐欺に引っかかって田舎のレストランで待ちぼうけを食らわされるシーンやエンドロール直前のシーンをはじめとして印象に残る場面もところどころにある。特筆すべき工夫や「ひねり」がある作品でもないし、ちょっと感想が書きづらい映画ではあるのだが、優れたヒューマンドラマであることは間違いない。