THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『グレイテスト・ゲーム』

 

グレイテスト・ゲーム (字幕版)

グレイテスト・ゲーム (字幕版)

  • 発売日: 2018/09/01
  • メディア: Prime Video
 

 

 1913年に行われた、ゴルフの全米オープンを題材にした作品。

 アメリカの労働者階級出身であるアマチュア・ゴルファーのフランシス・ウィメット(シャイア・ラブーフ)を主人公としながら、彼と優勝争いを競ったイギリスのプロゴルファーたちのハリー・バートン(スティーヴン・ディレイン)も準主役の扱いを受けている。

 ハリーもウィメットと同じく貧しい出身であり、映画のオープニングも、ゴルフ場建設のために家の近くを訪れた貴族たちに蔑まれて冷たく扱われる子供時代のハリーの回想から始まっている*1。その後にハリーが花形プロゴルファーとして活躍するに至るまでの過程は描かれていないが、「ゴルフは貧乏人の遊びではない」ということを言ってきた貴族に対する反抗心や自分の家を奪われたことに対する復讐心をバネにして成功してきたことは想像にかたくない。ハリーの打順が描かれる場面では、ここ一番という時に過去のトラウマが貴族の幻影となってあらわれて彼が集中するのを邪魔する、というシーンも何度か描かれる。

 また、国や世代やプロ/アマの違いがあれど、自分と同じく貧困層出身であるフランシスのことをライバルと認めて誰よりも彼に対して敬意を払っている、という描写にも好感が抱ける。実においしいキャラクターとなっているのであり、主人公であるフランシスよりもハリーの方が印象に残る観客は多いだろう。

 

 とはいえ、フランシスは主人公としてはやや凡庸であるが、ムラっ気がありつつも集中したときにはハリーをも上回る天才的なショットをする描写にはスポーツものの醍醐味が感じられる。フランシスがゴルフをすることを一貫して否定し続けてきた頑固な父親がクライマックスでついに息子のことを認めるシーンも、グッとくるものがある。一方で、上流階級のヒロイン(ペイトン・リスト)との交流はテンプレ的で全く印象に残らない。また、子どもであるエディ(ジョシュ・フリッター)がキャディーとなって彼がフランシスに的確な助言をしたりフランシスと友情を育んだりして頼れるパートナーとして活躍するところは、あまりにも子ども向けのフィクション作品っぽすぎる……と思いきや、エディの活躍も実話に基づいているらしいから驚きだ。

 フランシスやハリーと並んでプレーオフを争うテッド・レイ(スティーブン・マーカス)も二人と同じく労働者階級出身であり、繊細な技巧派っぽい雰囲気の漂うハリーとは対極に豪快なパワープレイを身上とする人物だ。巨漢な見た目や飾りっ気のない言動も見るからに「パワー系」のそれであり、嫌味な貴族にパンチを食らわすシーンや不利な状況からホールインワンを決めて上位争いに躍り出るシーンなどは実に痛快だ。大会の展開に風穴を空けてフランシスとハリーとの対決の間のメリハリをつける役割も果たす名脇役となっている。

 一方で、貧困層や労働者階級出身ではあるが卓越したゴルフ技術と高貴な精神性とを兼ね備えているフランシスやハリーやテッドとの対比を強調するために、貴族階級や上流階級のキャラクターたちはどいつもこいつもが下品で浅ましい俗物根性な人間として描かれてしまっている。こういう対比の仕方は塩梅とか加減の問題ではあるのだが、この映画では俗物の人数も多いし彼らが吐くセリフもひどすぎて非現実的なものとなっているしで、明らかにやり過ぎだ。ここら辺の描写はもう少し控え目にしておいたほうが良かっただろう。

 

 ゴルファーたちがショットに集中するシーンでは、周囲の観客たちや障害物が消えてホールとコースだけが純粋に見通せる…という演出が、CGを駆使して描かれる。15年前の作品なのでCGは古いし演出自体も漫画的なものではあるが、そのまま映したらどうしても画面が地味になってしまうゴルフというスポーツを映画的に描く工夫としては、なかなか良いものだ。終盤における白熱した試合展開には、実際のスポーツを見ているときのように惹きこまれてしまう。……ただし、ちょっと試合パートが長過ぎて、クライマックスのあたりには飽きやダレが来てしまうことは難点かもしれない。

 

 他の人の感想を調べてみたところ、やはり、最後の父親のシーンに涙している人が多いようだ。わたしは『スティール・ボール・ラン』のクライマックスを思い出した(映画からのパクリに定評のある作者だから、この映画からパクったという可能性も充分にある)。

*1:どうでもいいが、長帽子を被った男が小銭を弾いてハリーに恵むシーンでは、『大逆転裁判』というゲームの「コゼニー・メグンダル」というキャラを思い出した。この映画が元ネタになっているのかもしれない。