THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『キャビン』

 

キャビン(字幕版)

キャビン(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

 

アメリカ人にしては)清純派のデイナ(クリステン・コノリー)にマッチョのカート(クリス・ヘムズワース)、お調子者のマーティ(フラン・クランツ)にビッチのジュールズ(アンナ・ハッチソン)そしてメガネのホールデンジェシー・ウィリアムズ)...5人の若者たちは、森の奥にある小屋で夜明かし楽しむことを計画していた。しかし、小屋には不気味な地下室が存在して、そこにはいかにも怪しくて不吉な物体が散乱していた。その中からある少女が残した日記を見つけて、巻末に書かれていた謎のラテン語を読み上げると、案の定ゾンビが復活して、カートといちゃついていたところを狙われたジュールズを皮切りに若者たちは武器持ちのゾンビ一家に襲われることになる…。

 あまりにテンプレ的なホラーストーリーには裏側があり、大量の職員が働く地下施設で、若者たちは監視されていたのだ。ゲイリー(リチャード・ジェンキンス)とスティーブ(ブラッドリー・ウィットフォード)が指揮をとるその施設では、様々な「仕込み」を入れたりフェロモン効果や精神作用のあるガスや電気ショックなどで若者の行動をコントロールしたりすることで、テンプレ的なホラー映画の物語を人為的に作り出していたのであった。使われる道具は科学的だが何者かに血を捧げる儀式などのオカルト的な要素もあるその施設の職員たちは、若者のセックスを覗き見しようとしたりゾンビに襲われて逃げ惑う若者を見世物として扱ったりしているなど、明らかに風紀が爛れている状態であった。

 そして、若者たちは襲われながらも状況の人為的な不自然さに気付いていって、ついに地下施設への侵入を行う……。

 

 ホラー映画のパロディを軸としながらコメディとSF要素が強めの作品であり、最近ではそういう作品の方が普通のホラー映画よりも面白くて話題にもなるくらいだが(たとえば『ハッピー・デス・デイ』など)、この作品は地下施設の職員たちの存在を早々にネタばらししている点が優れている。若者たちがゾンビに襲われる本筋のストーリーはただのテンプレ的なホラー作品となっている代わりに、それに対して観客気分でいちいち突っ込みや茶々を入れたり見世物扱いにする職員たちの存在のおかげで、メタ的なギャグが楽しみ続けられるのだ。

 ……そして、若者たちが地下施設に侵入してモンスターたちを解放した後には打って変わってスプラッターとなるところも、中盤までの展開とのギャップで印象深い。地下施設の目的であったりその細かな設定やルールに関しては間違いなく適当でゆるく描かれているが、まあそこを気にするような作品でもない。むしろ、山小屋で襲われる若者たちのことを定番のゾンビ映画を観る気分で眺めていた職員たちが、自分たちもまたモンスターパニック映画の定番的な展開で全滅する、という因果応報ジョークの方がメインとなっているのだろう。

 設定は適当であるとはいえ、失敗すれば人類が滅ぶという重大過ぎる責任を負っている施設であるために、職員たちは精神的ストレスから倫理感を失くしている、とは考えられる(新人的な立場の人が他の職員たちの浮かれ具合を見てドン引きする、というシーンもある)。それにしてもリチャード・ジェンキンスは実に憎たらしいハラスメント気質のオヤジを見事に演じられている。

 若者たちのなかでは、やはりクリス・ヘムズワースが光るところだ。『マイティ・ソー』のイメージが強い彼がゾンビにやられるところはたしかに想像できないが、その死に方が施設側のルール破り的なイカサマのせいによるものであるところが気の毒だった。

 

 終盤におけるモンスターの大判振る舞いも、それまでに登場していたゾンビ一家がモンスターとしては地味なだけあって、人間が大量に虐殺される凄惨なシーンでありながらも爽快感が抱ける。しかし、デカいコウモリやデカいヘビやユニコーンや、謎のチェーンソー機械など、実際にホラー映画のメインとなられてもあまり怖くなさそうなモンスターが多かったような気がする。

 日本の小学校の教室に幽霊ちっくなモンスターがあらわれるが女子小学生たちが「はないちもんめ」を踊って撃退する、というシーンは短いながらもハリウッド映画にしては珍しく「日本らしさ」や「実際にありそうな日本映画っぽさ」が描けられていて、女子小学生たちにゲイリーが吐く悪態もあわさって面白かった。

 余計な「引っ張り」やネタの出し惜しみが全くなく、大落ちもそれなりに機能している、ホラーパロディ系作品の中でもひときわ完成度が高くて贅沢な作品である。怖さが全然ないのもいいところだ。