THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『立派な子供の育てかた』

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 ベン(マシュー・グッド)とキャサリントニ・コレット)の科学者夫妻は、住み込みのハウスヘルパーのロシア人男性(アンドレアス・アペルギス)と一緒に、「子供の性格や素質は遺伝子ではなく養育方法で決まる」ことを証明するために、1人の実子と2人の養子を用いた長期実験を行っていた。科学者の血筋である実子ルークを芸術家に、知能の低い血筋の養子モーガンを頭脳派に、短期で暴力的な血筋のモーリスを落ち着いて温和な人間に育て上げようとする実験だ。 この実験は子どもたちが赤ん坊の頃から開始されていたが、子どもたちが12歳になっても目立った効果は挙げられていなかった。出資者のガーツ(マイケル・スマイリー)はついに堪忍袋の緒を切らして、実験の成果が出ないようであれば出資を打ち切るだけでなくこれまでの出資に対する返金も要求するとしてベンとキャサリン夫妻を脅す。プレッシャーに駆られて実験を過激化させるベンと実験自体に嫌気が差して子どもたちに真実を打ち明けようとするキャサリンとの間にも不協和音が生じる。さらに子どもたちはおとなの見えないところで三人の絆を育み、反抗をするようになっていった……。

 

 ブラックユーモアが豊富な、設定が興味深いコメディだ。しかし、設定をぜんぜん活かしきれなくて、作品はぜんぜん面白くない。ジョークの多くはこの設定でなくても描けそうなものである。全体的には「けっきょく遺伝の影響の方が濃厚だった」といった感じの描き方だがそれも中途半端だし、「自分たちは実験をしていると思っていた夫妻たちが実は実験対象だった」という大オチくらいしか印象に残らない。役者も冴えないし、中途半端にシリアスな家族要素を出してくるところも微妙だ。

「遺伝子か育ちか」というテーマ自体はかなり深刻で興味深い題材であり、現実世界の学問でも未だに熱い議論が交わされている分野なのであるから、コメディに逃げずに正面から科学的風味のあるヒューマンドラマとして描いた方がよっぽど面白い作品になっていただろう。すでに『ガタカ』という先例はあるが、あの作品はSFなので、現代世界を舞台にした作品の方がより刺激的なものになるはずだ。もっとも、かなりセンシティブで反ポリコレ的な作品であるので、いまのアメリカ映画でそんなものを作るのはリスキーに過ぎることも否めない。だからこそ、コメディに逃げるという判断になったのかもしれないが…