THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『サン・ドッグス -生きる意味を探して-』

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 映画の舞台は2004年。主人公のネッド・チプリー(マイケル・アンガラノ)は知的障害を抱えた青年であり(詳細は作中では明かされていないが自閉症かな?)、そのためにメモを見ながらでないと人とまともに会話することができなかったり、いちど覚えた言葉を繰り返したりする。そして、正義感が強く「人を守りたい」「人の役に立ちたい」という気持ちは人一倍強く、作中で三年前に起きた同時多発テロ事件をきっかけに、海兵隊に入隊してテロリストの戦いに身を投じることを夢見ている。……その障害のために海兵隊への入隊は不可能であるが、息子が目標を持って前向きに生きることを止めさせたくない母親(アリソン・ジャネイ)は真実を息子に伝えなかった。母親の再婚相手であるボブ(エド・オニール)はネッドに呆れながらも彼とはうまく付き合っており、反戦映画である『ディア・ハンター』を何度もネットと一緒に見てさりげなく入隊への意欲を失わせようとしていたり、ネッドのバイトを口実に妻に隠れてカジノをしたりしていた。

 何度も入隊を断られたことでいてもたってもいられなくなったネッドはついに町中の海兵隊支部に押しかけて、ジェンキンス軍曹(イグジビット)に直談判する。そして、ネッドのしつこさに呆れたジェンキンス軍曹は、アメリカの町中に隠れたテロリストを捜索するという名目の「サン・ドッグス」という架空の舞台をでっち上げて、ネッドをサン・ドッグの一員に任命してしまった。

 ネッドはこれを本気で受け取り、自分で勝手に名刺も印刷して、町中でのテロリスト捜索を開始する。やがて、カジノの支配人である中東系の男性がテロリストであることを疑う。そして、カジノの客をカモにして生計を立てているタリー(メリッサ・ブノワ)と知り合うのだ。タリーはネッドの口から聞かされた「サン・ドッグス」のことを本気で信じてしまい、ネッドを戦争帰りの軍人だと思い込んで憧れてしまった。そして、ネッドとタリーはコンビを組んでテロリスト捜索を行うことになり、二人の仲も進展していったのだが、ついにタリーはボブの口から真実を聞かされることになって…。

 

 自閉症っぽいネッドが軍人に憧れて軍隊調のセリフしか言えないところなどはなかなかブラックジョークが効いているが、全体的には悪趣味な作品では全くなくて、むしろかなり優しくて温かい作品だ。準主人公であるタリーがネッドの言うことをコロリと信じ込んでしまうところはちょっとリアリティがなさ過ぎるが、彼女とネッドが交流したりジェンキンス軍曹に送るための報告ビデオを撮影するシーンはなかなか楽しい。

 そのジェンキンス軍曹やボブ、ネッドの母親などの脇役のキャラクター描写もかなり優れている。ネッドとの何気ない会話をきっかけに人生を見つめ直して夢を再び追求する母親の姿にはグッとくるものがあるし、ボブとの倦怠に満ちた生活を続けていたことについて「ネッドはもう自立しているのに、自分たちが彼を言い訳にしていただけだ」と言うシーンもよい。そして、妻に取り残されたボブはカジノや埋蔵金捜索が生きがいの寂しい人物ではあるが、血の繋がっていないネッドに対しては半分父親で半分友達といった絶妙な距離感で接する。ボブとネッドはほかの映画作品でもなかなか見かけないような関係性であるので、彼らの会話シーンには新鮮な面白さがあった。

 いちおうは「障害者もの」であるが、ネッドの知的障害が軽度であることから、一般的な「障害者もの」とは違うタイプの面白さや感動のある作品となっている。『ディア・ハンター』(そして『ライ麦畑でつかまえて』)はこの作品では重要な存在となっているが、戦争や兵士に観念的に憧れるネッドの行動には同じくロバート・デ・ニーロ主演の『タクシー・ドライバー』の主人公のような強迫観念も見受けられる。ここを強調すればもっと暗くてシリアスな話になっていたところだが、ネッドの奇行を暖かくも悲しいコメディタッチで描くことにより、独特な雰囲気を作品に漂わせることに成功している。

 

 とはいえ後半はちょっとダレてきて「まあ中の上くらいの作品かな」と思ってしまうのだが、それまでの伏線を活かしたラストシーンがかなり良かった。伏線が露骨なのでエンディングがどうなるかは途中から予測が付いてしまうのだが、ネッドがある人物のコスプレをするというひねりを加えることで、かなりファンタジックで感動的な描写になっているのだ。最後の画面に映される、ネッドのメモに書かれた言葉も素晴らしい。

 タイプライターやeBayなどの小道具の使い方も上手くて、設定の面白さだけにとどまらない、なかなかハイレベルな作品となっている。