THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『アメリカン・ファクトリー』

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 アメリカの中西部であるオハイオ州にて、かつてはゼネラル・モーターズ社のプラントであったのがいまでは中国企業の福耀社に所有されてしまった工場を舞台としたドキュメンタリー。アメリカ人の労働者たちと中国人の重役たちを中心に取材されており、映画の後半では労働組合の成立投票を巡って労働者たちとの利害対立が浮き彫りになる形になる。

 共産主義国家のくせに労働組合をめちゃくちゃ嫌って労働者たちを容赦なくこき使う中国人経営者たちと、労働組合の重要性を痛感するアメリカ人労働者たちの対比が映える構成となっている。

 まず印象に残るのが、中国人経営者たちの欺瞞と悪辣っぷりの凄まじさだ。ゼネラル・モーターズに比べて大幅に給料をカットするだけでなく、「安全追求していたら利益が生み出せない」と言い切って労働環境を大幅に悪化させて実際に労災を多発させる。アメリカ人の重役たちが中国に招待されて接待されている場面は北朝鮮のようなマスゲーム感があって気色悪かったし、労働組合成立の阻止に成功した後にいけしゃあしゃあと「優秀な社員数名だけを中国旅行に招待してあげる」と言ってのける場面も神経を逆撫でさせられる。アメリカやヨーロッパにあるような民主主義や個人主義や人権意識の精神は皆無なのに資本主義や新自由主義の精神だけはきちんとあるので、末端の労働者にとっては最悪に近い環境となっているのだ。「中国なら週七日働くのが当たり前だよ、できるものならアメリカ人にもそうさせたいものだね」という旨のセリフが出てくるシーンには「こっち来るな」と思ってしまった。

 Wikipediaによるとオバマ元大統領のプロダクションが製作した映画であるらしいし、Netflix配給ということを考えても本来はリベラルな観客を狙った映画であると思うのだが、素直に見るとわたしのように中国に対する悪感情だけが高まるつくりになっていると思う。……とはいえ、アメリカやその他先進国の多国籍企業発展途上国で運営している工場も似たようなものであるかもっと劣悪なものであるというニュースはよく聞くし、アメリカ国内の企業でも組合つぶしは横行しているのだろうから、中国云々は本質とは外れていて、それよりも普遍的な労働問題を描いた作品であるのだろう。また、これまでは現地の中国人をこき使い続けていたアメリカ人が逆の立場に立たされる、という風刺や皮肉を読み取ることもできるかもしれない。

 しかし、「外資系企業で働かされる」という状況にはやっぱり独特の消耗感や絶望感がある。海の向こうであれこれ決められたことに自分の労働環境や生活が左右されるうえに、いくらがんばったところで「本国への旅行に招待」が関の山というのは虚しいものだ。そういう点では、現代に特有の「疎外」感というものがあるかもしれない。

 工場という舞台からして、マルクス主義的な「疎外」はこの作品の全編に漂っている。希望の綱であった労働組合も潰されて、どんどんと自動化が進んでいきいつかクビになる日を控えながら虚しく働きつづける労働者の姿はいろいろと象徴的だ。