THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『アメリカで最も嫌われた女性』

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 アメリカの有名な無神論者、マデリン・マーレイ・オヘア(メリッサ・レオ)の誘拐事件を描きつつ、彼女の生涯を振り返るストーリー。長男のウィリアム(ヴィンセント・カーシーザー )や元は仕事のパートナーであり彼女を誘拐した張本人でもあるジョシュ・ルーカス(デヴィッド・ウォーターズ)との確執が徐々に明らかにしつつ、誘拐犯たちとの想定よりも長引いた監禁生活が当初は誘拐犯たちとの交流をもたらしてうまくいきそうにも見えたがやがて決定的な破綻がもたらされる、というストーリーが描かれる。

 

 タイトルやNetflixのサムネイルの印象から勝手にドキュメンタリーだと思い込んで見てしまったのだが、伝記映画としても大して面白くない。信念を持って無神論を唱えていた女性の生涯を描いた映画かと思いきや、段々と彼女のマデリン・マーレイ・オヘアの傲慢さや俗物さや活動の腐敗に焦点が当てられることになる。それはそれでいいのだが、ほかの伝記映画であれば「理想を持って活動していた人の腐敗や挫折」もドラマチックに描けるものであるところを、この作品ではそこの描写がなだらか過ぎていまいち感じ入るものがない。

 誘拐の顛末を描いた現代パートは誘拐犯たちとの交流を描いたぶんそのあとの悲劇が強調されるかたちになっているが、どうにも演出が上手でなくて間延びしているからハラハラもしないし、事実を基にした映画であるはずなのに悪い意味での作り物っぽさも感じてしまった。

「有名な人物の伝記とその周りの人物による犯罪」という組み合わせは『アイ、トーニャ:史上最強のスキャンダル』を思い出させるものであるが(ジョン・ガース・マーレイを演じるマイケル・チャーナスは少しだけポール・ウォルター・ハウザーを連想させる)、『アイ、トーニャ』の方がずっと出来がいい。なんというか、この映画は出来が悪いとか破綻しているとかつまらないとか以前に、ただただ無味乾燥なのだ。別のもっと真面目で尊敬できる無神論者を題材にした映画か、『ゲティ家の身代金』みたいに犯罪や誘拐パートに注力して緊張感のある映画にするか、どちらかに割り切っていればよかったと思う。