THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』

 

ウエスタン (字幕版)

ウエスタン (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 学生の頃にDVDで観ていたが、新宿ピカデリーで改めて鑑賞。

 

 ハーモニカを吹く謎の凄腕ガンマン(チャールズ・ブロンソン)、冷酷非道な始末屋フランク(ヘンリー・フォンダ)と彼を雇う鉄道会社社長モートン(ガブリエル・フェルゼッティ)、婚礼の日にフランクに夫を殺害されて未亡人となったマクベイン夫人(クラウディア・カルディナーレ )、そして地元では悪名高いが「子ども(と神父)は殺さない」という信条を持ち気の良い面もある無法者のシャイアン(ジェイソン・ロバーズ)。この五名の利害が絡み合い、協力と裏切りが錯綜しあいながらも、最後にはハーモニカとフランクとの一騎打ちに落ち着く…というストーリーだ。

 

『夕陽のガンマン』もそうであるが、よく考えるとシンプルで大したことのないストーリーを、登場人物の顔のアップを繰り返したり気の利いた台詞の応酬をさせたり芝居がかったパフォーマンスをさせたりなどの勿体ぶった演出で迫力と貫禄を出してなんだか「すごい」雰囲気を醸し出す、というのがセルジオ・レオーネ監督の十八番であり最大の醍醐味でもある。観客はその勿体ぶった演出を楽しみにしてレオーネ作品を観るようなものだ。

 一方で、そのままではあまりにシンプルすぎるストーリーに多少でもひねりを加えるために、登場人物の利害関係を複雑にして裏切ったり裏切られたりの要素をストーリーに付け加える、というのもレオーネ監督がよくやることだ。しかしこれは醍醐味というよりかは「悪癖」に近いものであり、悪役とその部下が互いに敵対しあう展開になると「またか」とうんざりしてしまうところがある。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』も3時間近くある作品ではあるが、もう少し短くすることは可能であったとは思う。

 

「ドル箱三部作」では常に"無敵"な雰囲気を放っていたクリント・イーストウッドに比べると、チャールズ・ブロンソンはちょっとだけ貫禄が劣っていて「もしかしたら負けてしまうかも」という雰囲気が漂っていることは否めない。しかし、ハーモニカとシャイアンとの関係は、リー・ヴァン・クリーフイーストウッドとの「二大主人公」体制であった『夕陽のガンマン』に比べて作品内での「格」の主従が明確であり、そのぶん、ハーモニカは主人公らしい活躍をしてシャイアンは脇役らしい活躍をする、という典型的ではあるが王道ですっきりした役割分担になっている。

 そして、「ドル箱三部作」に比べても役者陣のおっさんたちの顔の濃さがボリュームアップして、画面の暑苦しさがいい意味で増している。特に悪役のフランクを演じるヘンリー・フォンダは素晴らしい。狡猾ではあるが結局は腕っぷしに頼るしかなく新しい時代に付いていけずに荒くれ者としてか生きられない、という彼の悲しい性が強調されることで、観客は悪役であるフランクにいつのまにか感情移入してしまうのだ(むしろ、クライマックスまで背景が明かされていないハーモニカに感情移入することの方が難しいくらいだ)。マクベイン夫人にネチネチとセクハラするときの嫌らしい顔付きも実に堂に入っている一方で、ふと見せるもの哀しそうな表情には悪役のものと思えない複雑さが感じられる。フランクとはまた別種の悪役であるモートンも、病体でがんばっているところはつい応援したくなるし、ごく短い描写でアメリカ大陸横断鉄道にかける彼の執念を観客に伝えるシーンはさすがのものだ。その死に様も切ない。

 そして、セルジオ・レオーネ作品には珍しく女性としてメインキャラクターを張るマクベイン夫人もなかなかのものだ。序盤は気丈で強気に振る舞うものの結局は男たちの強さには敵わず彼らに振り回されてしまうかたちになるのは作品の作られた時代的な制約を感じるが、登場シーンにおける御者とのやり取りとかいかにも性格のキツそうな眼差しとか生々しい肢体とかはやはり魅力的だ。

 

 シャイアンが惜しくも退場した後に、マクベイン夫人が死んだ夫の夢を継いで駅開発にいそしむラストシーンも印象的であるが、この映画でいちばんいいのは何と言ってもオープニングだ。ハーモニカに一瞬で撃ち殺される、クリントの部下である雑魚敵のおっさん三人が駅で待っている様子をこれでもかというくらいくどく描写するところは、レオーネ流の勿体ぶった演出の真骨頂であるだろう。このおっさんたちはモブキャラでありながらもやたらと顔に味があって記憶に残るし(特にハゲのおっさんがいい)、電車が去ると同時にあらわれるシャイアンの登場の仕方も格好いい(『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』におけるキャプテン・アメリカの登場シーンはこの映画のオマージュであるかもしれない)。

「ドル箱三部作」に比べると漫画的なケレン味は劣るぶん、王道の西部劇に近づいてヒューマンドラマっぽさも多少増して、より味わいがある作品となっている。イーストウッドのカリスマ性を堪能できる『夕陽のガンマン』も良いが、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』にも特有の良さがあって、甲乙つけがたいところである。