THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『アクエリアス』

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 ブラジル映画。昔から家族や愛する夫と「アクエリアス」というアパートに住んでいた元音楽評論家の中年〜高齢女性クララ(ソニア・ブルガ)は、再開発をしたがっている建設業者はクララに立ち退きを求めていた。頑固なクララは知人や家族に説得されても断固として立ち退こうとしないが、業を煮やした建設業者はだんだんとクララに嫌がらせをするようになっていって…。

 

 終盤の建設会社による画期的な嫌がらせが多少画面映えするくらいで、全体としては地味で淡々としている。テーマも不明確で、クララの癌とか性生活とか夫や家族との関係とかが細々と描かれていくが、業者との争いという物語のメインプロットとどう関わっているはわからない。キャラクターも主人公以外は全く印象に残らず。なんか単純に「権力や社会的圧力に屈しない信念のある女性」を描いてみました、みたいなイマドキの風潮に乗っかっただけのような感じもする。

 終わり方は唐突とはいえ印象的なものではあるが、どう考えても2時間20分かけて描くような内容ではない(これが余分なエピソードを省いて1時間30分きっかりに収めたうえでのあの終わり方だと、まだしも評価することはできた)。

 主人公が音楽評論家であるという設定を活かして音楽のセンスはいい。また、ブラジルのカラフルで爽やかな自然風景や屋内描写は素敵だし、登場人物が悪人も含めてみんなカジュアルな格好をしていて(クララを除けば)爽やかな表情をしているのもなんだかブラジルっぽいし、そういう点ではアメリカ映画にはない独特な感じはある。

 …だが、『先に愛した人』を見たときにも思ったが、わたしの人生は「アメリカ映画にはない独特な感じ」を得るためだけに1時間30分とか2時間20分とかかけるには貴重過ぎる。あとわたしはオリエンタリストではなく全世界諸国を公平な観点から同一の物差しで判断する一貫性のある人間なので、「独特な雰囲気」とか「なんか深遠そうな感じ」で映画としてのつまらなさを誤魔化そうとするこのテの作品にはしっかり低評価を付けることにしている。

 ふつうはこういう映画って「アメリカ映画が嫌いな人」とか「"芸術的"な映画が見たい人」しか見ないものであるからニッチ戦略によってついつい高評価されがちであることを考えると、わたしのような人間は映画評論界の良心であり要であると言えるだろう。