THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

ひとこと感想:『マジック・イン・ムーンライト』&『ベイルート』

●『マジック・イン・ムーンライト

 

 

マジック・イン・ムーンライト(字幕版)

マジック・イン・ムーンライト(字幕版)

  • 発売日: 2015/10/23
  • メディア: Prime Video
 

 

 中国人に扮したマジックで一世を風靡している、偏屈で悲観的で無神論者なイギリス人マジシャンのスタンリー(コリン・ファース)と、自称「霊能力者」のアメリカ人娘ソフィー(エマ・ストーン)との恋のお話。最初は「ソフィーの霊能力はインチキだ、暴いてやる」と息巻いていたがスタンリーだが、ソフィーと関わっているうちに互いに惹かれ合うようになり、しかしソフィーの正体が暴かれたことにより二人の仲も決裂してしまいそうになるが…。

 近年のウディ・アレン作品は過去に比べてもさらに登場人物のキャラクター描写の書き割りっぽさや平板さが目につくようになっており、この作品もその悪癖を免れていない。ストーリーに批評性のあった『ブルー・ジャスミン』と違ってこの作品はただの甘ったるいラブストーリーなので(無神論がどうこうの議論も出てくるがスパイス程度の役割しか果たしていない)、おしゃれで華やかではあるが退屈で大したことのない作品になってしまっている。

 ただし、女子を可愛く撮る技術は相変わらず素晴らしい。とにかくエマ・ストーンに愛嬌があって魅力的だ。プラネタリウムが出てくることもあって『ラ・ラ・ランド』も思い出したが、あちらのエマ・ストーンはまだしも主体性のあるキャラクターであったのに対してこちらではウディ・アレン作品のヒロインにありがちな完全に客体的で表面的な存在ではある。だが、表面的で都合のよい女性としての可愛らしさがしっかり演じれられているのだ。特にダンスシーンでの笑顔が良かった。エマ・ストーンは眼力もすごいし口の圧力もすごいしで、身近にいたらこわくて近寄りがたい存在だと思う。

 コリン・ファースの演技も素晴らしい。だが、50代の男性と20代の女性との年の差恋愛というプロットは、やっぱり受け付けられない。終盤で妙に純真っぽい振る舞いをするところはいくらコリン・ファースといえども「おっさんが小娘相手にソワソワするな、気色悪い」と思わされしまった。

 

●『ベイルート

 

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 1982年のベイルートアメリカの政府職員が武装勢力に拉致されて、1970年代に外交官として活躍していたがひどい事件に巻き込まれていたために引退してアメリカに戻ってアル中になっていた弁護士のメイソン(ジョン・ハム)が武装勢力との交渉役として半強制的にベイルートに戻される。そして武装勢力との交渉を開始したメイソンであるが、なんと、武装勢力の代表者はメイソンが外交官時代に保護して養って世話をしていた青年であったのだ。彼は有名なテロリストである兄の身柄を引き渡せと要求するが、その兄はメイソンの家族を殺した張本人だ。拉致されて人質になった職員のカル(マーク・ペルグリノ)は友人であるしテロリストの青年にも情はあるけどその兄は憎き敵なので、メイソンはいろいろと悩む。さらに、政府側でもイスラエル政府とかアメリカ政府とかその他諸々の国がなんか色々と陰謀を企てていてぼやぼやしていたらカルが殺されたりメイソン自身が殺されたりするかもしれないみたいな状況になっちゃってさあ大変。メイソンは、アメリカ政府のエージェントのなかでも話が通じる女性であるサンディ(ロザムンド・パイク)を味方に引き入れて状況を打開しようとするが…。

 上述のあらすじの書き方からもわかる通り、無駄に複雑なお話なので途中から興味をなくしてしまった。主人公が元凄腕だが現在はアル中であることといい、陰謀渦巻く複雑な物語が面白さを阻害していることといい、舞台設定はぜんぜん違うが『ザ・コールデスト・ゲーム』を思い出した。

 お話が複雑になることには理由もあって、レバノンのごちゃごちゃしていて悲惨な状況を象徴させる、という意図があるのだ(冒頭の「2000年にも及ぶ報復と抗争、殺人の歴史がある町、ベイルートへようこそ」というセリフはこの作品のなかでもいちばん印象的だが、批判の対象にもなったらしい)。しかし、ひどい言い方をしてしまうと、ここら辺の中東の国の歴史ってまさに"無駄に"複雑であるからこそ、映画にしたときにもシンプルでスッキリしたストーリーを作ることが難しくなって話をつまらなくさせてしまうという問題があると思う。この作品に限らず、中東における戦争状況とかテロとの戦争を題材にした作品って、現実の混沌としていて泥沼になっている状況を正しく反映してしまうがために、ピントやフックがよくわからないモヤモヤしたストーリーになってしまうことが多いのだ。

 見た後に調べると監督は『ボーン・アイデンティティー』シリーズの人であるらしいが、たしかにあのシリーズもやたらと複雑でゴチャゴチャした内容にさせたがるイメージが強い。わたしはもうちょっとシンプルな作風の方が好みだ。だって所詮は架空の主人公が活躍するスパイものなんだし。