THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

ひとこと感想:『アス』、『犬神家の一族』、『ベイビー・ドライバー』、『モンスター上司』

●『アス』

 

アス (字幕版)

アス (字幕版)

  • 発売日: 2020/02/07
  • メディア: Prime Video
 

 

ゲット・アウト』がつまらなかったのでこちらは劇場公開時はスルーして、思ったよりも早くprime videoで配信されたからそれで見てみたが、案の定つまらない。本国でも多数の人が思っているだろうが、どう考えてもOver-ratedな監督であると思う。英語版のAmazonレビューでも「この映画に4つ星とか5つ星とか付けるようなヤツはどんな映画を見ても満足するようなヤツだろう」と貶しているものがあってよかった。

 ただし、そんなに怖くなくて妙にのんびりしたギャグが多い「ゆるさ」は、コメディ畑出身な監督らしさが出ていて印象に残った。また、黒人差別などが直接的なテーマではないのにアフリカ系アメリカ人の家族が主役として描かれているという点には映像的な新鮮さがあって、それもよかった。

 しかし、肝心のクローン人間の設定がひどすぎるし、ホラーとしても観客の感情コントロールにも失敗し続けている。ホラー映画だけど怖くないし、『ヘレディタリー/継承』のように不安感とか嫌な気持ち抱かなければ、『哭声/コクソン』のような不条理さやケレン味もなくて小ぢんまりとしている。クローン人間の設定には何やら社会的なメッセージが込められているらしいが、そのメッセージの表現に成功しているとはとても言えない。

 しかし世の中のまじめな人たちは「あるフィクション作品がなにかのメッセージを表現しているらしい」ということを聞くと「そのメッセージを作中で表現することに成功しているかどうか」を度外視して「この作品にはこういうメッセージが描かれていて感心した」となってしまうらしく、そうなるとどんなにヘタクソでもメッセージを描いたもの勝ち、ということになるのだ。そういう点では、ジョーダン・ピール監督のセルフプロデュース能力は素晴らしいと言えるだろう。

 

●『犬神家の一族

 

 

犬神家の一族(1976)

犬神家の一族(1976)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

悪魔の手毬唄』もそうだったが、市川崑って演出過多で安っぽく、「日本映画の名匠」的な扱いをされているのがちょっと不思議だ。物語の舞台や登場人物たちが日本的だから誤魔化されそうになるが、見ているときの感覚は昔の野暮ったいアメリカ映画を見ているときのそれとあまり変わらない。

 しかし、『犬神系の一族』はおそらく原作のストーリーが優れているということもあって、最初は文句を言いながら見ていたが途中からなんだかんだで惹きこまれてしまった。スケキヨなんてその後のメディアで散々イジられてしまったキャラクターであるが、ちゃんと見てみるとしっかり不気味で存在感があって良い。

 ただし、オールスターキャストがウリになっているわりに、どの俳優も対して印象に残らない。登場人物が多すぎて個々のキャラクター描写が書き割り的になっているうえに(ミステリーのつらみでもある)、ケレン味を優先した演出のせいで演技が大げさなものにさせられているためであるだろう。特に石坂浩二が演じる金田一耕助は漫画的なキャラクターになっていて微妙だった(フケを落とす描写も実写でやられると汚さが強調され過ぎてしまう)。

 ロケ地である信州上田の、昭和の香りがまだまだ残っていた頃の素朴な景色がいちばん魅力的であったかもしれない。

 ストーリーに関していうと、『金田一少年の事件簿』のエピソード「飛騨からくり屋敷殺人事件」がこの物語をモチーフにしているということは以前から知っており、「飛騨からくり屋敷殺人事件」はかなり陰惨な話だったので『犬神家の一族』も見る前に身構えていたのだが、思ったより陰惨さはなかった。珠世や猿蔵、スケキヨなどのキャラクターによって物語に救いや清涼さが与えられているのだ。また、同じく遺産争いミステリーである『ナイブズ・アウト』はこれよりももっと爽やかな話であった。『金田一少年の事件簿』って「飛騨からくり屋敷殺人事件」の他にも後味が悪くて陰惨で救いのないエピソードがいくつもあるのだが、これは元ネタである金田一耕助シリーズのせいではなくて、原作者の樹林伸の性格に由来するものであるのだなと思った。

 

●『ベイビー・ドライバー

 

ベイビー・ドライバー (字幕版)

ベイビー・ドライバー (字幕版)

  • 発売日: 2017/12/13
  • メディア: Prime Video
 

 

 公開当時に劇場で見ていて、その時にはそこまで評価していなかったのだったが、主演のアンセル・エルゴートのスキャンダルが発覚して、ついでにスキャンダルで役者生命が絶たれているケヴィン・スペイシーも出演していることから、いつNetflixが配信停止にしてしまうかわからないと危惧して慌てて再視聴した。

 改めて見ると、音楽とアクションを一体化させる演出の技術はすごいし、物語のテンポもかなり良いしキャラクターの立たせ方や展開の捻り方も職人芸という感じで、普通にクオリティの高い映画だ。ジェイミー・フォックス演じるキャラクターが敵役になると思いきや、主人公と心を通わせる描写もあったジョン・ハムが最後に立ちふさがる強敵となる…という展開はなかなか憎い。エドガー・ライト監督の作品は『ワールズ・エンド/酔っ払いが世界を救う!』がそうであったように前半は素晴らしいのに後半でグダグダな展開になってしまうことが多かったのだが、『ベイビー・ドライバー』はクライマックスが近づくにつれて物語のテンションが上がっていく構成になっていて、弱点を克服していると言えるだろう。

 ただし、あまりにタランティーノ映画っぽい登場人物たちの言動は鼻につく。特に主人公とヒロインはこのテの「裏社会に不本意ながら巻き込まれている若者」作品のキャラクターとしてありがち過ぎるし(主人公の聴覚障害とかで多少のオリジナリティを出そうとはしているものの)、主人公とヒロインの恋愛パートはあまりに映画的過ぎて、ぜんぜん感情移入できない。逃走のためにおばあちゃんの車は盗むけどカバンは返す、そのおばあちゃんが後日に裁判の証人として主人公に有利な証言をする、という描写もわざとらしくて妙にムカついた。

 また、カラフルな画面の作り方や場面転換の仕掛けや音楽とアクションのマッチングなどの諸々の演出がちょっとあまりにも作り込み過ぎていて味付け過多で胸焼けがしてしまう。劇場で見たときと同様に、監督のドヤ顔が浮かんでくるようで、再視聴してもやっぱり好きになれなかった。同時期に公開された『アトミック・ブロンド』にも同様の問題点があったように思える。

 

●『モンスター上司

 

 

モンスター上司 (字幕版)

モンスター上司 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 

ベイビー・ドライバー』と同じくケヴィン・スペイシージェイミー・フォックスが共演している作品ということで鑑賞。大したことのないコメディ作品だし、ギャグもグダグダして滑っているところが多い。主人公三人組よりも、ケヴィン・スペイシージェイミー・フォックスが演じているキャラクターの方が面白い存在になっている。10年前の映画なだけあって、洗練されていない差別的なジョークも多く、いま作るとこうはならないだろうなという感じである。