THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『泥の河』

 

泥の河

泥の河

  • 発売日: 2018/03/01
  • メディア: Prime Video
 

 

 Netflixで配信されていたので視聴。

 宮本輝が描いた1950年代の物語を、1980年代に映画化した作品。戦後の貧しい風景が忠実に再現されている。

 子どもが主役の物語ではあるが、主人公の父親を演じる田村高廣を筆頭に、大人の役者陣たちが印象に残る作品だ。田村高廣はもちろん、主人公の母親を演じる藤田弓子も、荷車を引く男を演じる芦屋雁之助も、「人の良さ」が全面に出ていて実にいい。廓船の女を演じる加賀まりこだけは影が差した存在であるが、大人たちは主人公とその友人の姉弟を含む三人の子どもたちに対して実に暖かく優しい。主人公の父親が子どもたちの前で手品を披露するシーンはこの映画のなかでも最も印象的なシーンである。全編に登場する大阪弁も、この映画の雰囲気に実にマッチしている(特に、主人公の父親が呟く「スカみたいに死んでいく」というセリフが絶妙だ)。

 しかし、基本的には「貧しさ」や「戦後の繁栄からの取り残され」をテーマとしているので、悲しく暗い話であることは間違いない。米粒にてを突っ込んで「ぬくいんやで」というシーンも侘しいし、おばけ鯉が象徴している、廓船の親子の暗い運命のことを考えると実にやるせない。

 子役の演技は時代性もあってうまいかどうかはちょっと判断が付かないが(『鬼畜』よりはずっとマシだと思うが)、いまどきの映画ではなかなか見られないような子ども同士の純粋な友情を描いていていい感じだ。主人公より、その親友の「きっちゃん」の方が、活発だが暗い一面も持ち合わせていることで印象に残るキャラクターになっているように思える。かわいそうだからカニは燃やすなよ、とは思ったけれど。

万引き家族』は様々な場面でこの映画を元ネタにしているらしい。また、「貧困」と「子ども」の組み合わせは『フロリダ・プロジェクト/真夏の魔法』を思い出すところだ。あちらでは母親が「大人」としての責任を果たしていたなかったとはいえ、擬似父親的な役柄を演じていたウィレム・デフォーはこの映画における田村高廣の役柄を思わせるところがなくもないかもしれない。…また、『万引き家族』や『フロリダ・プロジェクト』は貧しい人間たちの愚かさや視野の狭さも強調されていたが、こちらではそういう種類のリアリティはすっぱり排除して、寓話性の高い人情もののジュブナイルとして描きあげている。いまどきではこういう取捨選択は批評家ウケが悪くて許されない気がするから、ギリギリこの時代でないと成立しない名作とみなすことができるかもしれない。また、名作であることは間違いないがところどころに「素人っぽさ」が顔を出しているような気がする…と思ったら、実際に自主制作映画であるそうだ。