THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『プレステージ』

 

プレステージ (吹替版)

プレステージ (吹替版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 日本で公開された2007年に映画館で見て以来の再視聴なので、なんと13年ぶり。当時は大学生になりたてで、定期的に映画館に行く習慣もまだ身に付いておらず、そのくせイキってシネフィルぶってはいたのでたまに映画館に行く場合にも京都シネマとか京都みなみ会館とかのミニシアターばっかりで、京都MOVIXというシネコンに一人で映画を見にいったのはこの作品が初めてだったのだ。なんか入場者プレゼントで荒木飛呂彦の描いた主演三人のイラストシールだかステッカーだかをもらった思い出がある。ついでに言うと監督のクリストファー・ノーランによる『ダークナイト』が公開されるのはこの一年後で、『メメント』や『バットマン・ビギンズ』の後だとはいえ、まだ私は存在も認知していなかった。そんなこんなで、いろいろと思い出深い作品である。

 

 さすがノーラン監督作品だけあってストーリーも映像もインパクトが強く、13年ぶりだとは思えないくらいに様々なシーンが記憶に残っていた(ヒロインがスカーレット・ヨハンソンであることはすっかり忘れていたけれども)。貴族的で派手だが独創性に劣る秀才タイプのアンジャー(ヒュー・ジャックマン)と、庶民的で地味だが天才肌なボーデン(クリスチャン・ベール)、二人の奇術師の血で血を洗うネタバレ合戦や策謀対決がストーリーの主軸であり、特に二人がそれぞれに編み出した「瞬間移動」手品のトリックが物語の肝となっている。

 アンジャーは物語の後半からニコラ・テスラデヴィッド・ボウイ)の発明品を用いたファンタジックで非現実的な「瞬間移動」をあみ出すようになり、この手品のSF的でグロテスクなトリック(そして、アンジャーの帽子が大量に積み重なったシーンやラストシーンにおける大量の水槽などの禍々しい絵面)が、この作品のプロットのひとつの軸となっている。しかし、それ以上に重要なのが、ボーデンの側の「瞬間移動」トリックのタネだ。……このトリックはちょっとミステリーに詳しかったり映画を見ることに慣れていたらすぐに察しがつく様なものであるとは思うのだが、当時はまだまだ映画鑑賞経験が浅く純粋であったわたしは見事に騙された。

 そして、今回はオチを知った状態で改めて観てみたのだが、するとボーデンの側のストーリーは最初から最後まで最後の種明かしに向けた伏線の山盛りであることに気が付かされた。ちょっとやり過ぎなくらいであるが、ここまで堂々と伏線を張りまくれるのは監督の自信が成せる業であるのだろう。1回目の視聴ではオチを全く予想できなかった人が、タネを知った状態で改めて見て伏線の妙味を堪能する、というのがいちばん贅沢な鑑賞の仕方かもしれない。

 

 オチや伏線以外の点に関しては、アンジャーもボーデンも陰湿で執念深くプライドの高い性格をしていて、そんな二人のドロドロの復讐劇が2時間以上にわたって延々と繰り広げられるので、華やかで奇想天外な世界を舞台にしておきながらも暗くて後味が悪い作品になっていることは否めない(オチの衝撃で後味の悪さは多少は薄れるが)。しかし、クリスチャン・ベールヒュー・ジャックマンというスターの共演や、脇を締めるマイケル・ケイン、そして当時は若くてスタイルの良さだけでなく肌もプリプリしていておっぱいも柔らかそうで最近とはまた違った華やかさやエロさのあるスカーレット・ヨハンソンのおかげで、ストーリーの暗さがあまり気にならないようになっている。要するに、役者の演技を見ているだけでも楽しめるということだ。

「映像化不可能」なミステリー小説(というか、原作はどちらかというとファンタジー小説であるらしいが)の映像化に挑戦した映画というのはよくあるものだが、ミステリーというジャンルがもともとトリックやサスペンスにこだわるあまり人間描写や世界観が浅薄で表面的で短慮なものになりがちということもあって、トリックがどうこう以前に物語として底が浅く充実感を抱かせられないものが多い。しかし、この作品はノーラン監督らしい「こだわり」が徹底しており、登場人物のセリフや小道具やストーリーの展開などのありとあらゆるところで「奇術」というモチーフが全面に押し出されており、作り込まれた作品ならではの充実感を抱かせてくれる。オチのSF要素や復讐劇のドロドロっぷりが災いして世評はあまり高くない作品であるようだが、わたしとしては思い出補正抜きでも充分に他人にオススメしたくなる作品だ。