THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

ひとこと感想:『ラヴレース』、『影の車』、『ダイヤルMを廻せ! 』

●『ラヴレース』

 

 

ラヴレース(字幕版)

ラヴレース(字幕版)

  • 発売日: 2014/11/02
  • メディア: Prime Video
 

 

 お気に入りの女優であるアマンダ・サイフリッドが主演しているので視聴した。1970年代のポルノ業界を題材にした映画ということで見る前から『ブギーナイツ』を連想したし、実際に前半部分はBGMの選曲とか業界人ばっかり出てくる登場人物たちの格好も含めてまんま『ブギーナイツ』であったが、後半部分からはだいぶ様子が変わってくる。あちらがポルノ産業を基本的に肯定する映画でありポルノ産業で成り上がって人生を輝かせた男優を描いた作品であったのに対して、こちらはポルノに出演したことで人生がめちゃくちゃになった女優を描く作品であったのだ(実際には、ポルノに出演したこと以上にポン引きのDV野郎な男と結婚してしまったことの方が大きいのだが)。つまり、『ブギーナイツ』がポルノ産業の「光」を描いた作品であったのに対してこちらはポルノ産業の「影」を描いた作品なのである。

 というわけで『ブギーナイツ』にあったような高揚感は抱けないし、実在した女性のという毀誉褒貶というシリアスな題材に収まっているぶん、映画としては全体的に小ぢんまりしている。シャロン・ストーン演じる母親や父親のキャラクターはいいが、業界人である脇役たちはみんな軽薄で魅力がない(ボビー・カナベイルは端役であるが相変わらず胡散臭さが漂っているところがよかった)。内容は淡々としているし、前半で後半とでトーンが変わる構成の工夫は良いが、それがなければかなりの凡作になっていたところだ。

 しかし、アマンダ・サイフリッドの魅力を堪能する映画としてはなかなかのものだ。DVなどに悩まされだす前の若くて思慮の浅く考えのたりない女の子を演じているところは天真爛漫さがあって魅力的だし、後半に苦悩してシリアスな顔になっているところもいい。イメージ映像的なヌードシーンでも、身体だけでなく悪戯っぽい表情がかなり魅力的だった。 

 

●『影の車

 

影の車

影の車

  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: Prime Video
 

 

 松本清張原作・野村芳太郎監督のコンビの作品だが、『砂の器』や『疑惑』に比べると完成度はぐっと落ちる。子どもが主要なキャラクターになっているという点では『鬼畜』を連想するが、親が子を殺す物語であったあちらの作品にはタイトル通り鬼気迫る迫力があったが、子どもがシングルマザーである母親の恋人を殺そうとするこの作品にはリアリティやシリアスさが感じられなくて、どうにも安っぽくてテレビドラマ的なサスペンスに落ち着いてしまっている。おどろおどろしい演出も逆効果だ。

 しかし、めずらしく悪女でも気の強い女でもなくしおらしくて健気な未亡人を演じている岩下志麻が、やたらと可愛らしい。彼女の美しさが堪能できるだけでも悪くない。濡れ場のシーンはもちろんエロいし。加藤剛が演じる主人公の浮気男も、気が強くて自立心の強い奥さん(小川真由美)に嫌気がさしてコブ付きの未亡人とずるずる不倫してしまう情けなさが絶妙であった。

 また、野村芳太郎の作品はどれもそうであるが、昭和の日本の街並みや生活の様子の映し方が素晴らしくて、ストーリーとは関係なしについつい惹きこまれてしまう。特に前半部分は、生活の倦怠感から逃れるために互いに気を許しあって気がついたらのっぴきならぬ関係に陥ってしまう…というよくある不倫描写の描き方が上手くて、たいした事件も起こらないのにヒューマンドラマとしてつい見入ってしまった。出身地が近い二人がノスタルジーで結ばれる、という点もそれっぽくて良い。奥さんの予定を常に気にしていたり、奥さんがやっている花の稽古のために近所の女性たちが集まって家に居場所がなくなってダンマリしたり、仕事帰りにそわそわとお土産を買って嬉しそうに不倫相手の家に行ったりと、主人公の生活や行動が実に情けなくてちょっと哀れなところにやたらとリアリティがある。こういう優柔不断な男って本当にいそうだ。

 むしろ、子どもの殺意が表面化して事件が起こりだしてからの方が、風情や情緒に欠けるただのサスペンスになってしまってつまらなくなったくらいだ。

 ついでに言うと、クライマックスの後に逮捕されしまった不倫カップルに、頑固な刑事がお説教をかますシーンもよかった。「不倫もの」というジャンルではつい不倫が美化されてしまいがちであり、正面から道徳や規範を説く人物はなかなか珍しいものである。

 

●『ダイヤルMを廻せ!

 

 

ダイヤルMを廻せ [DVD]

ダイヤルMを廻せ [DVD]

  • 発売日: 2011/12/21
  • メディア: DVD
 

 

 プロットは凝っていると思うのだが、共感のできる登場人物はいないし舞台の移動がなくてずっと似たような画面だしで、お話に惹き込まれることがなかった。主人公のたてた殺人計画が思わぬアクシデントで失敗して、そこからも二転三転するストーリー展開は流石のものだと思ったけれど。

 特にキャラクターの魅力のなさがひどいもので、グレース・ケリーは見た目はいいが自分の意志もロクにない浮気女に過ぎないし、好青年ぶっておきながら堂々と不倫するロバート・カミングスも不愉快だ。主人公であるレイ・ミランドも、浮気して自分を裏切った妻に対する憎悪という点では同情の余地があるが、サイコパスっぽい振る舞いが多過ぎて人間味が感じづらいのがマイナスだ。ジョン・ウィリアムズが演じる警部はいいキャラクターをしているのだが出番が少なく、せっかくだから前半は殺人の計画者の視点をメインにして後半は警部の視点をメインにするという『刑事コロンボ』的な構成にしておいた方が、サスペンスとしてのワクワク感は大きかっただろう。

 しかし、『アパートの鍵貸します』といい、1950年代のアメリカって性道徳のかけらもなくて物語の中ですら浮気が非難されずに看過されるというところがおそろしい。