『ドラゴン・タトゥーの女』
デビッド・フィンチャー監督作品。男性主人公のミカエルをダニエル・クレイグが、女性主人公のリスベットをルーニー・マーラーが演じる。とはいえ、ミカエルは真面目な正義感で好感度は高いながらも地味でテンプレ的ななキャラクターとなっており、それよりもずっとキャラの濃いリスベットの方が真の主役という扱いだ。
原作者は男性であるそうだが、ミソジニーをテーマとした(つまりフェミニズム的な)作品であることは映画からも伝わってくる。リスベットも、顔中にピアスを入れて全身タトゥーで髪に剃り込みを入れて服装はパンクでバイセクシュアルでついでにヘビースモーカーで…と、そのテの要素がモリモリだ。劇中で自分をレイプした男性を徹底的にやり返すシーンもあるし、事件の真犯人である男も殺そうともする。「反抗」の権化のようなキャラクターである。…そして、こういうキャラが無能であると話にならないので、ハッキングもできてアクションもカーチェイス(バイクだけど)も完璧にこなせてと、スーパーマンのような存在になっている。いかにもフェミニズム的なメッセージに都合のいいキャラとなっていて、あざとさが強く、そこに白ける人も多いだろう。わたしとしては、フェミニズムは抜きとしても、タトゥーとかピアスとかのパンクファッションが大嫌いなので、リスベットには魅力を感じられない…と言いたいところだが、リスベットを演じているルーニー・マーラーは好みのタイプであるので、ところどころグッときてしまった。変装してまともな女性のような外見になっているシーンでは、ルーニー・マーラーのウリである繊細で神経質そうな美貌が堪能できる。また、ミカエルに恋愛感情を抱いた挙句に勝手に失恋して落ち込んでいるシーンは、ピアスや奇抜な髪型でも誤魔化せない「恋する乙女」としての良さが感じられた。…というか、本来ならこういうキャラが男性に恋愛感情を抱いたりあまつさえ失恋なんてしてしまったらキャラ萌えとしてはともかくフェミニズム的テーマの作品としてはダメだと思うのだが、そこは原作者も監督も男性であることの良し悪しであるかもしれない。
ダニエル・クレイグはジェームズ・ボンドを演じているわりには強気なヒーローよりも巻き込まれ役となってひどい目にあうことが似合う風貌をしていて(007シリーズでも毎回ひどい目にあっているのだが)、この映画ではしょっぱなからトラブルで追い詰められていたり自分に懐いた猫を殺されてしまったり犯人に吊るされて拷問された挙句殺害されそうになったりと終始悲惨な目にあっていて、本領発揮という感じだった。一方でリスベットや女編集長たちなどの女性たちがベッドに誘ってきたり(リスベットとはモザイクたっぷりの本番シーンもある)、序盤で巻き込まれていたトラブルはリスベットの作戦であっさり解決するうえに大金もゲットしたりと、おいしい目にあっているのも面白いところだ。リスベットの引き立て役であるとはいえ観客が感情移入しやすいようになっており、なかなか良いキャラクターとなっている。
依頼主である大富豪を演じるクリストファー・プラマーやその部下のスティーブン・バーコフ、犯人役であるステラン・スカルスガルドに女編集長のロビン・ライトと、脇役陣も抜かりない。リスベットをレイプする(そして復讐されてひどい目にあう)鬼畜な後見人も、物語の本筋とは関係ないがかなり印象的なキャラクターである。
そして、デビッド・フィンチャーらしく映像面がバツグンに素晴らしい。「移民の歌」をBGMにしたPVのようなオープニング映像も印象的だが、一点透視図法的な画面構成をバンバン出してくる本編のカメラワークにも惹き込まれる。ヴァンゲル家の"橋"がフィーチャーされる回想シーンやリスベットが資料室で調べ物をするシーン、ミカエルが北欧らしいおしゃれな犯人宅に侵入してしまうシーンや案の定捕まってしまって地下の拷問部屋に拘束されるシーンなど、印象的な画面がやたらと多いのだ。9年前に劇場でこの映画を見たときにはストーリーに関してはちょっと期待外れなところがあったし、改めて観てみてもサスペンスとしてよくはできているけれど特筆すべきところもないストーリーだなという感じなのだが、キャラクター造形以上にカメラワークと画面作りがすごいおかげで、妙に記憶に残る映画となっているのだ。