THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『もののけ姫』

 

もののけ姫 [DVD]

もののけ姫 [DVD]

  • 発売日: 2014/07/16
  • メディア: DVD
 

 

 映画館でやっていたから鑑賞。中学生だか高校生だかのときにテレビで放送していたのを観て以来だから、10年以上ぶり。『風の谷のナウシカ』を映画館で見てみたらダルかったのであまり期待していなかったが、こちらはずいぶんと面白かった。ただし、アニメ映画という表現形式をふまえるとジュブナイル的な『千と千尋の神隠し』の方がわたしは好きだ。

 

 改めて観ると、本来はかなりシンプルなストーリー(人里離れたところにいて人間と対立するヤバい存在に手を出してヤバいことになるが反省の意を示してなんとか事態が収まる)であるところを、キャラクターと勢力を増やすことで事情を複雑にしてなんとなく奥行きを出す、という構成にしている。そのねらいは成功しているが、この構成が「完成度の高い」ものであると言えるかどうかはちょっと微妙であるとも思う。もののけ陣営にはシシガミとサンやモロの他にも乙事主がいて(さらに外野に猩々がいて)、というところまではいいが、人間側がタタラ場の人たちとアサノの侍たちとで対立していてさらに間にジコ坊率いる唐傘連とかジバシリとかがいて……というのは『風の谷のナウシカ』にも感じられた設定過多の悪癖という感じがする。

 また、アシタカはもちろんのことサンもエボシ御前もそれなりに高潔な連中であり、他の作品なら悪役的な立ち位置になりそうなジコ坊もアシタカと交流するシーンがあったりして憎めない存在となっているなど、「悪役」を作らない作劇についても良し悪しだ。シシ神殺害に伴う災害が起こった後にも名有りのキャラが誰も死なない点は爽やかであるが、けっきょくモブキャラはいっぱい死んでいるしその死に様がわりと露骨に描写されている点をふまえると、さほど後味が良いとも言えない。

 サンのキャラクターは"狼少女"的なキャラクターのテンプレとして理解できるが、野心家で好戦的なのに「高潔」さが強調されているエボシ御前のキャラクター性には嘘臭さやしつこさが感じられた。クシャナといい、こういう女ボス的なキャラクターはわたしは苦手だ。らい病っぽい人たちを手厚く扱って感謝される、というシーンもちょっとあざといというかわざとすぎる。

 超人的でなんでもできるアシタカもナウシカとほとんど同じような完璧超人なキャラクター性をしているが、風の谷のお姫様であり住民から慕われて崇められている描写があったナウシカに比べると、異邦の地から物語の舞台に客人として訪れたアシタカはまだ「なろう」感が少ない。もちろんタタラ場ではモテまくるし、キレたときの彼に敵うキャラクターはいないのだが、後ろ盾のない異邦人の立場であるために活躍の場も多少は制限されている点がいい。まあジェームズ・ボンドみたいなものだと思えるし、女性であるナウシカに比べると古典的で作為性のない素直なヒーロー描写として受け止められるのだ。

 モブキャラクターに関していうと、『風の谷のナウシカ』ではナウシカの胸の谷間がわざとらしく描かれたシーンひとつを除けば色っぽいシーンがなく、『千と千尋の神隠し』では湯屋という舞台のために存在自体が性的な「湯女」が大量に登場していたが、『もののけ姫』では「タタラ場の女たちの胸が終始はだけている」という生活感や時代的なリアリティのある性描写であるところがよかった(まあこれはこれでわざとらしさはあるけれども)。「女性優位社会」の描き方もメッセージ性が露骨でちょっとイラっとしたが、タタラ場の男連中にも情けないなりに活躍の場が用意されているので、まだ許容範囲という感じ。

 しかし、テーマがテーマであるから仕方がないとはいえ、「アメリカの映画やアニメとは真逆の"日本的"な世界観の物語を描いてやる」という意気込みや気負い見たいのが強く感じれて、そこがちょっと鬱陶しくもあった。「悪役を用意しない」とか「女系社会」とか「人間と自然との調和」とか、仮想敵としての"アメリカ映画"なり"西洋"ありきで逆算して設定や物語を作っているようにも思わさせられてしまう。まあこれは穿ち過ぎかもしれないけど。

 

 CGとセル画が調和した映像は素晴らしい。『千と千尋の神隠し』では一部のキャラクターのマスコット色が強くて興ざめなところがあったが、『もののけ姫』ではコダマですら可愛らしいながらもしっかり不気味さがあるし、他の「もののけ」連中のデザインも洗練されている。動物好きのわたしとしてはタタリ神とか特攻イノシシとかは素直に可哀想に思えた。一方でシシ神のデザインの絶妙な「動物っぽくなさ」もさすがのものである。殺伐とした戦闘シーンも、デイダラボッチが暴れ出すディザスターシーンも一級品だ。序盤におけるタタリ神の体の周りでヘビがウネウネ動いているシーンとか、アシタカが矢を放つシーンの迫力とかもそのほとんどが手書きのセル画であることを考えると、現代となってはもはや再現できないオーパーツであるだろう。ここら辺の映像技術のすごさについては、劇場で観た甲斐を感じられた。BGMもなかなかよかったと思う(歌は余計でいらないと思ったけれど…)。