THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『死ぬまでにしたい10のこと』

 

死ぬまでにしたい10のこと(字幕版)

死ぬまでにしたい10のこと(字幕版)

  • 発売日: 2016/02/01
  • メディア: Prime Video
 

 

 ガンで余命2カ月を宣告されてしまった23歳のアン(サラ・ポーター)は、「死ぬまでにしたい10のこと」のリストを書き出してそれを実行しようと生きることにした。リストには「娘たちに毎日愛していると言うこと」のほかにも「夫以外の男の人と付き合ってみる」「誰かが私と恋に落ちるよう誘惑する」という項目があって、思惑通り、カフェで知り合ったリー(マーク・ラファロ)という男と不倫関係になる。それと同時に夫(スコット・スピードマン)と娘のために自分の代わりとなる相手を探してあげたりもして……。

「死ぬ前に一番やりたいことが”浮気”って、お前の人生それでええんか?」という感想が先立ってしまう作品ではあるが、アンが23歳であり、17歳のときに付き合った夫のこをはらんでしまいそのまま彼と結婚して……という人生を送ってきたことを考えると、同情の余地はある。若くして二児の母親になってしまい、夫は優しいけれど甲斐性はなく、大学の清掃員の仕事を夜間にしており、同僚は延々とダイエットの話ばかり、アンの楽しみは量産品しか並ばないスーパーに行くことくらいしかなくて……と、(夫や娘との関係は良好であるとはいえ)もとから可能性が閉ざされていてロクな楽しみもない人生を送ってきた人が余命宣告をされる、というところがポイントの作品なのだ。

 だから、同じような「余命宣告もの」である『生きる』などとは狙いが全く異なっている。『生きる』が描こうとした「人生の意味」のようなたいそれたものは、『死ぬまでにしたい10のこと』は全く描こうともしていない。

 おそらく、アンと同じような貧困層であったり若いころの過ちに流されて不本意な人生を送っている女性が主な対象なのであって、そんな彼女たちにマーク・ラファロとの不倫というロマンスを提供することがウリの作品であるのだろう。英語のナレーションでは"You"が強調されるなどして、「もしあなたが余命2ヶ月と宣告されたらどうしますか?」と深刻な疑問を投げかけている風の作品ではあるが、そこで「じゃあわたしもワイルドなイケメンと不倫しちゃおっかな〜!」と照らいなく答えられる層こそが、この作品のメインターゲットなのである。

 不倫を描いているくせに、アンが夫にも娘にもリーにも余命のことを隠したうえでメッセージを残してスッキリしてからポックリと逝ってしまう、残されたものはそのメッセージを聞かされる、という展開のために、罪悪感を一切生じさせない作りになっている。実にご都合のよろしいことであるが、ロマンス物語なんてそんなものである、ということなのだろう。

 

 作中のテーマ曲はビーチボーイズの"God Only Knows"であり、印象的に使われる箇所が何度かあるのだが、わたしも"God Only Knows"が好きであるからこそ「こんな作品に使って名曲を汚すな」と思った。

 主演のサラ・ポーターは透明感や清潔感の漂う、魅力的な女優だ。一方で、ロマンスのお相手であるマーク・ラファロに関しては、実はわたしは昔から苦手である。コメディリリーフとして活躍するぶんにはいいのだが、ムチムチと肉付きがよくて髪はもじゃもじゃでヒゲも濃いマーク・ラファロはちょっと"雄度"が高すぎて、彼にロマンスをやられると胃もたれてしてしまうのだ。