THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『シャイニング』&『ドクター・スリープ』

 

『シャイニング』は五つ星、『ドクター・スリープ』は二つ星。

 

●『シャイニング』

 

 

シャイニング (字幕版)

シャイニング (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 いまでは大半のホラー映画はそんなに怖くなく見れるし夜におシャワーしたりおトイレに行くときにもホラー映画のことを思い出してビクビクすることはなくなったわたしであるが(『ヘレディタリー/継承』だけは例外で、あれは観終わったあとしばらくビクビクしていた)、若い頃はホラーがもっと苦手だった。そのため、キューブリック作品では『バリー・リンドン』や『フルメタル・ジャケット』などは観ていても、ホラー映画の金字塔、というイメージが強い『シャイニング』は敬遠していたのだ(そういえば『2001年宇宙の旅』と『時計じかけのオレンジ』も観たことがないが、この二つはなんかつまらなさそうなイメージがあるからである)。

 

 そして、いざ観てみると、肝心の恐怖シーンはテレビのバラエティ番組のホラー映画特集とかで何度も見させられたものばっかりということもあって、さっぱり怖くない。惨殺された双子の死体のシーンとかテレビで見たときには恐ろしくて目を逸らしたものだが、いま見ると「はいはいゴア描写ね」という感じだし、狂ってしまったジャック(ジャック・ニコルソン)が斧でドアを壊して顔を突き出すシーンも「こんなもんか」だった。風呂場の老女や「盛会じゃね」おじさんや着ぐるみを被ったあいつなどの賑やかしな幽霊たちは怖いというよりもシュールであるし、ジャックが凍死している姿もその変顔のせいでもはやギャグである。

 しかし、時代遅れの滑稽な作品かというと、全然そんなことはない。怖くはなくても、「不穏さ」の演出は現代のホラー映画の作品ではほとんど見られないくらいに芸術的で印象的だ(『ヘレディタリー/継承』がいろいろな場面で『シャイニング』を参考にしていたこともよくわかった)。ホラー描写がほとんど出てこない序盤から「こりゃイヤなことが起こるな」と伝わってくるし、オープニングの空撮とかダニー(ダニー・ロイド)がカートを漕いでいる時のカメラワーク、大広間的な場所にタイプライターと机を置く異常な配置とか箱庭のような迷路のシーンなど、ほかの映画では目にかからないような場面が多くて、単純に楽しいのだ。

 俳優に関しては、ジャック・ニコルソンの良さは言うまでもない。斧を持ち出して暴れるシーンよりも、激昂しながら甲高い声で妻のウェンディ(シェリー・デュヴァル)をネチネチと責め立てるシーンの方が彼の本領が発揮されていると言えるだろう。シェリー・デュヴァルとダニー・ロイドはホラー映画の被害者ポジションとして古典的な役柄ではあるが、美女と美少年ということもあって映画栄えしている。特にシュリー・デヴュヴァルは、当時のファッションに黒髪ロングと痩せ体型の相性が良くて、かなり魅力的なヒロインだ。また、気の毒な目にあうマジカル・ニグロなハロランさん(スキャットマン・クローザース)もいい味を出していた。

 深読みしようと思えばいくらでもできる作品ではあるのだろうが、散々語り尽くされているだろうからわざわざ深読みする気は起きない。しかし、たとえばエンディングの写真のシーンと音楽、そしてエンドクレジットの後の話し声などは、恐怖感というよりも幻想感があってかなり不思議な余韻を残してくれる。映画史に残る一本であることもうなずける作品だ。

 

●『ドクター・スリープ』

 

 

ドクター・スリープ(字幕版)

ドクター・スリープ(字幕版)

  • 発売日: 2020/01/30
  • メディア: Prime Video
 

 

『シャイニング』の続編。ダニーは成長してユアン・マクレガーとなり、ローズ( レベッカ・ファーガソン)という女がひきいる吸血鬼もどきな悪人集団から自分と同じ超能力持ちの少女アブラ(カイリー・カラン)を守るため、幽霊になっちゃったハロランさん(カール・ランブリー)の助けを借りたり善人のビリー(クリフ・カーティス)を巻き込み死させたりしながら(またマジカル・有色人種的な描写になっていて気の毒だった、まあ主役格であるアブラがアフリカ系だからOKなのかもしれないけど…)、最終的には『シャイニング』の舞台となったホテルに戻って幽霊たちに吸血鬼を襲わせつつ自分も幽霊たちに襲われてあーだこーだ、みたいなストーリー。

 

 成長して「ドクター・スリープ」となったダニーがホスピスで働いている場面はそれなりに良かったが(かわいい猫ちゃんも出てくるし)、吸血鬼もどき集団と超能力者チームとの対立はB級感が漂っていて実にしょーもない。悪役のくせにジャンプ漫画の敵集団みたいに仲間思いな吸血鬼たちの設定には少し笑ってしまったけれど。

 後半にホテルに戻ってからは『シャイニング』のオマージュ…というよりも「そのまんま再現しました」というシーンのオンパレードで、血の海を見たローズがさして驚きもせずに「あーそういう感じね」と言わんばかりの皮肉な笑いを浮かべているところだけは面白かったが、まあ映画としては完全に『シャイニング』頼りであり、大した価値も完成度もない作品である。これで90分くらいで収めてくれていたらファンサービス的な作品としてまあいいかなとも思えたのだが、2時間半と無駄に長いために腹が立った。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』二部作を観たときにも思ったが、子どもの死を残酷に描くことで物語のスパイスとしているのは作品として悪趣味だ。また、シャイニングとかいう超能力を強調されたところでそんなん俺にはないから知らんがなという話であるし、なんの比喩や隠喩であるかもよくわからなければSFやファンタジーやバトルの文脈としてもさほど面白いものになっていない。ついでに言うと、ダニーがアルコール中毒に苦しんでいるという設定もあまりにありがち過ぎて「またかよ」って感じでうんざりした。

 原作者のスティーブン・キングが映画版『シャイニング』を嫌っていることは有名であるし、未だに許していないうえに「私にとっては、映画は小説よりも下に位置する、はかない媒体だ」とほざいている始末であるらしいが、キングの小説を忠実に再現した『ドクター・スリープ』よりも『シャイニング』の方が100倍は価値のある作品であるだろうし、『IT』の原作小説がグダグダと長くてつまらなかったことを思い出すとどうせ原作版『ドクター・スリープ』やそのほかの彼の長編小説も似たようなものであるだろう。キングの小説はあと10年や20年もすれば読む人がいなくなるだろうが(大御所的なエンタメ小説家のありがちな例として、昔からのファンが惰性で読んでいるとしか思えない)、『シャイニング』(や『ショーシャンクの空に』や『ミスト』など)はこれからも映画史に残る傑作として多くの人に鑑賞され続けていくことであろう(『ドクター・スリープ』や『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の寿命は短いだろうが)。