THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『OLD』

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『イン・ザ・ハイツ』と『孤狼の血:LEVEL2」を観にいく"ついで"という気持ちで観に行ったのだが、意外や意外、この作品がいちばん面白かった。

 わたしはシャマラン監督についてはきわめてニュートラルな立場であり、ファンでもアンチでもない。最近だと『スプリット』はそれなりに楽しめたし(スカッと市内終わり方なのはイヤだったけれど)、『ミスター・グラス』も「騒がられるほどのものではないが悪くないな」という感じで楽しめた。

 『OLD』はホラーだということで『スプリット』のような作品かなと思っていたのだが、実際にはSFやファンタジーに近い作品であるように思える。「時間の流れが異常で、人間が急速に歳を取る」という特殊かつガバガバな設定のなかで、手を替え品を替えて異様な絵面や常軌を逸した不条理な展開を見せてくれるので、恐ろしかったり黒かったりするのと同時に妙なワクワク感があるのだ。『ファイナル・デッド・コースター』シリーズみたいな普通のホラー映画で登場人物の死に方をあれこれ工夫して楽しませるというのには下品なのだが、この映画だとSF的なセンスオブワンダーのほうが優っていて、上品というかあんまりイヤな気持ちを抱かせられない。

 あまり気に気に入らなかった点を挙げると、主人公たちの一家だけが露骨に優遇される、アメリカの物語にありがちな悪い感じの家族主義が出てしまっているところ。特に医者夫妻は気の毒だ。おばあちゃんや犬があっけなく死ぬのを皮切りにして、医者の夫は劇中で「邪魔者」と明言されてしまうし、妻のほうも急に凶暴化したと思ったらとんでもなく痛々しい死に方をしてしまう。夫が手術を前にして「マーロン・ブランドジャック・ニコルソンが共演していた映画ってなんだっけ?」と言い出すシーンは作中でも随一のシュールさがあるし、金目当てに近づいたであろう美容整形しまくりのアバズレ女が自分の外見にばかりとらわれながら自滅するという展開は女性差別的といっていいくらいに時代錯誤。そしてこの映画のなかでいちばん悲惨なのはどう考えても医者夫妻の娘で、5歳か4歳かで妊娠や陣痛とその直後に子供の死を体験した挙げ句に、本人も親より先に死んでしまう。前回の記事の脚注部分でも触れたけれど、物語の展開やエンタメ性の都合で登場人物の命の価値に明からさまに差をつけるというのは、わたしは好きではない。

 女の子のおっぱいを大きくして揺らすことで成長スピードをわかりやすくしたりするとか、子どもから思春期になったかと思ったらすぐにムラムラしてエッチして妊娠しちゃうとか、陣痛が始まっているうしろで「一発でできるとは思わなかった」と言い訳していたやつが超スピードで父性に目覚めるところか、「明かりをつけるな」って何度も言われているのに煽るかのようにマッチをつけまくるところか、もはやギャグの領域に突入しているような妙な場面も目白押しだ。これらのシーンのせいで緊張感みたいなものはなくなってしまうんだけれど、オリジナリティがあることはたしかである。

 

 特にわたしが気に入ったのは、終盤の展開。どう考えても脱出不可能で全滅エンドかと思いきや、他の登場人物たちが軒並み死んだ後になって、姉弟とは脱出のためのヒントを突如思い出す。その後に「観察者」たちの視点に話が移されて、長々と「種明かし」されたかと思ったら、実は冒頭から伏線が貼ってあった警察官のもとに何者かが声をかけて……というところで終わるかと思いきや、ここから結構な尺をとって、姉弟が生き延びた過程とか悪の組織が警察に摘発されて崩壊する様子などが描かれる。この展開は洗練されているものとはいえず、どう考えても、警察官に声をかけるところで終わらせたほうが余韻が残って洗練されたエンディングとなるはずだ。とはいえ、あんなに不条理でグロテスクな世界を散々に描いたあとで、最後はきっちり勧善懲悪で締めるというのも、それはそれで好ましい。特にホラー映画というものは「悪」側や「不条理」側が勝ち逃げする後味の悪いエンディングになることが多いから、ホラー映画で勧善懲悪をやってくれるというだけで、つい好ましく思えてしまうのである。

 終盤に悪の組織の医師が放つ「こんどは精神病患者と内科患者は分けてほしい」というもっともなセリフとそれに対する悪の組織のボスの受け答えなど、どう考えてもクライマックスに入れる必要のないやりとりも、蛇足ではあるんだけれどなんか監督の生真面目さがうかがえて、嫌いになれない。