THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『孤狼の血:LEVEL2』

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 前作のほうがシンプルで王道なので好みであるが、今作も悪くない。松坂桃李が演じる主人公は、前半こそパッとしないものの、後半で弟的な存在が殺されてからの「覚醒」はなかなかのものだ。人のいい顔をした相棒刑事が実は……という展開や、ロクでもなさそうな記者が実は……という展開も、定番ではあるが効果的で悪くない。

 この映画はストーリーや作品評価の大部分は鈴木亮平演じるジョーカー的な狂犬ヤクザの存在にかかっており、そして彼はたしかにそれなりに印象的なキャラクターである(単なる狂人なだけでなく独自の「仁義」も多少は残っているところか幼少期のコンプレックスが存在するところとかはよい描写であると思う)。中盤まではこのキャラクターに食われ気味であった主人公も後半に巻き返して、最終的には主人公を引き立てる存在になるところも、ギリギリの危ういところで脚本のバランスが取れていると評価できるだろう。

 とはいえ、ヤクザ映画では、「暴」一辺倒の若手の狂犬ヤクザは「智」を兼ね備えた側には叶わず結局は踊らされて死んでしまう徒花になることが定番なところ、この映画のなかでは若手の狂犬ヤクザがやたらと強力な存在になっている。いちおう話の筋描きとしてはこの映画のなかの鈴木亮平もそういうポジションだが、いかんせん格好良すぎるし、彼以外の組のヤクザたちは智も暴もなくて終始いいように蹂躙されるだけ、というのはご都合主義的であるしヤクザ映画としてのリアリティにも欠ける。老獪な古狸たちの防衛術とか手腕とかも描いてくれたほうが世界観の広さや深さを感じられただろう(そもそも松坂桃李にかなりの部分をコントロールされているという設定な時点でこの映画におけるヤクザたちの存在の格はあまり高くないのだが)。また、クライマックスにおける主人公の行動がほとんど感情や根性に突き動かされており、作戦とか策略とかがほとんど伺えないのもどうかと思う。いつの間にか主人公と狂犬ヤクザの間にライバル的な感情が芽生えたかみたいになっているのもちょっと説得力がなかった。狂犬ヤクザの死に方はもっと惨めなものにしても良かったと思う(「おれには死神がついているねん」と豪語した直後に呆気なく銃で殺されるというのもそこそこの惨めさはあるのだが、できれば主人公と対決するまもなく県警にハメられて殺されるとかそっちのほうがいい)。