THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『コブラ会』(シーズン1)

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『シャン・チー/テン・リングスの伝説』を観た日の夜にカンフーものが続けてみたくなったので、軽い気持ちを『コブラ会』をシーズン1の1話から観はじめた(正確にはカンフーではなく空手ものだったけれど)。すると、これがめっぽうに面白い。前編である『ベスト・キッド』は観ていないのだが、それでも充分に楽しめる作品だ。

 

 なんといっても、元悪ガキであり、少年時代に悪の空手軍団である「コブラ会」に所属していたジョニー・ロレンス(ウィリアム・ザブカ)が主人公であるというところがいい。大会で正義の「ミヤギ道」空手を習ったダニエル・ラルーソー(ラルフ・マッチオ)に負けたジョニーはすっかり落ちぶれていたが、ふとしたことをきっかけに弟子を志願する少年ミゲル(ショロ・マリデュエニャ)があらわれて、「コブラ会」を勝手に立ち上げて再結成する。一方で、ジョニーの実の息子のロビー(タナー・ブキャナン)も、ダニエルから空手を習うことになり……という展開がユーモア混じりで描かれる。過去の映画では善人であったダニエルがジョニーの回心を信じずに権力を利用した手段でコブラ会を潰そうとする一方、コブラ会で暴力的な空手を習った子供たちは「力」や「勝利」への執着がジョニーの手に負えないほどになってしまい……といった、善悪や清濁が入り混じる展開にはシリアスさもあるが、結局やっていることはティーンエイジャーのカラテ大会であるのだから、コメディを基調とするのは正解だろう。

 

 ダサい・頭が悪い・気が利かないと欠点が三拍子そろったジョニーが、自分の弟子であるミゲルに軌道修正されながらコブラ会を立ち上げて徐々に道場を拡大させていく様子には、テンポの良いサクセスストーリーとしての面白さがある。ジョニーは時代に合わないスパルタ教育を行い反ポリコレ的な台詞も吐きまくるのだが、体育会系マインドや暴力が実際にイジメられている子供たちにとって助けになる、ただし行き過ぎると「闇落ち」する……という描き方のバランス感覚はかなり見事だ。ジョニーは悪人ではないが不器用なおバカなので差別的な言葉を吐いてしまう、といったキャラクター描写も繊細で好ましい。一方のダニエルとロビーのパートでは王道な修行シーンが描かれるところもメリハリが効いているだろう。

 

 キャラクター同士が本当のことを言うタイミングを逃したせいで誤解が広がって険悪な仲になり……といった展開には連続ドラマの悪いところが出ていてうんざりしたが、ジョニーを中心とした愛らしいキャラクターたちを描くためには映画の尺では難しく連続ドラマでないといけない、というのもよくわかる。『ベスト・キッド』時代の役者をそのまま大人役に採用しているため、ジョニーもダニエルもいまとなっては「華」のある見た目ではないのだが、そのショボクレっぷりがそれぞれのキャラクターに実にマッチしている。コブラ会の道場やカラテ大会の会場の手作り感や大味な街並みなども、話のスケールにマッチしていてむしろ心地よい。シーズン2以降も楽しみだ。