THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『レミニセンス』

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インセプション』を連想させるような予告が話題であるが、過去にとらわれるかどうかというエンディングはたしかに『インセプション』を想起させる。そして、『インセプション』の最大の感動はレオナルド・ディカプリオ演じる主人公が夢(=亡き妻との過去)の世界に決別して現実(=現在)を生きる選択をしたことをふまえると、『レミニセンス』の主人公のヒュー・ジャックマンが現在を捨てて過去を選択することは、「こういうオチもあるのね」とは思えるけど感動に欠ける。作品としてのメッセージ性や志も、かなり低いところまで落ちてしまったように思えるのだ。

 

 とはいえ、チームによるミッションものであった『インセプション』とは違い、この作品は(タンディ・ニュートンという相棒も一応いるけど)主人公がひとりで孤独に真相を追い求めるハードボイルドな探偵ものだ。そしてハードボイルド映画らしく、レベッカ・ファーガソンというヒロインに対するロマンチシズムはこれでもかというくらいにたっぷり描かれている(そんなに美人だとも思えないし、「そこまで引きずることあるかぁ?」って思っちゃったんだけれど、それを言い出したらこの作品に限らずハードボイルド探偵映画はだいたい成立しなくなってしまう)。最近のハードボイルドものといえば『マザーレス・ブルックリン』だけれど、ロマンスの要素が弱めなあちらに比べたら、『レミニセンス』は近未来SFという特異な設定ながらハードボイルドの王道を2021年に貫徹しているという点では評価に値するだろう。すくなくとも気骨が感じられる作品ではある。ハードボイルド探偵の主人公は情けなく女を追い求めてチンピラに暴力を振るわれて迂闊なミスから大ピンチに陥るのが定番であり、この作品でもそういった要素がコテコテに盛り込んであるが、ヒュー・ジャックマンのムチムチマッチョな体系と、意外と甘ったるくて情けない顔立ちも、この作品の主人公としては実にふさわしい。

 とはいえ、ストーリーの単調さや真相のしょうもなさ、ボス敵のショボさなど、ハードボイルド作品に特有の欠点もしっかり残してしまっている点は困りもの。せっかくの近未来SF設定なんだから、それをフルに活かして欠点を改善するくらいの工夫はしてほしかった。脳がイカれてしまい夫との過去を再現しようとしつづける老婆の狂気を描くシーンはよかったし、黒幕の男子もちょっと気の毒で印象的だったけれど。

 

 監督が女性であることにはけっこう驚いた。いかにも男性的な理想とロマンを描いているし、ヒロインがけっきょくは善人であるという世界観の甘ったるさも男性監督のそれのように思えたのだ。とくに、主人公が悪役の記憶を覗くことを前提にした「告白」シーンは胸ヤケがするくらい甘ったるい。でもまあ、ちょっとロマンチシズムが露骨過ぎて今の男性監督には恥ずかしくて描けなくて、女性監督だからこそ「男ってバカね~」と思いつつ描けたのかもしれない。SNSの感想を観ると、ヒュー・ジャックマンを「愛でる」という観点で観ている女性も多いようだ。

 しかし、ドラマ畑出身の監督であるせいか、セリフによる説明が多すぎたと思う。なんでもかんでも説明してしまうし、冒頭も終わりもひたすらクドく描写されるので、ハードボイルド映画としての余韻が感じられないというところもあった。