THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『フランシス・ハ』:27歳の青春もの

 

フランシス・ハ

フランシス・ハ

  • メディア: Prime Video
 

 

『マリッジ・ストーリー』が良かったので、同じノア・バームバックの監督作品の『フランシス・ハ』もPrimeビデオで観てみたのだが、こっちの方がさらに良かった。私はいちど観た映画を観返すのは映画の詳細を忘れた数年後であることがほとんどなのだが、この映画はかなり良かったので例外的に数日間で2回も観てしまった。

 話としては『マリッジ・ストーリー』とは全然ちがっていて、ニューヨークに住む先行きの決まらないプロダンサー志望の27歳の女性主人公がキャリアとか人間関係とかに色々と悩みながらがんばっていく、という感じの青春ものだ。

 青春ものではあるが「27歳」という年齢がポイントだ。キャリアもロクに定まっていない主人公は友人との些細な人間関係に悩まされたり住所もコロコロと変えたりその場しのぎで日銭稼ぎのバイトを始めたりとまるで学生のようなフラフラした生活をしているのだが、そうこうしているうちに同世代の仲間は仕事で出世したり結婚したりしていく。主人公はポジティブで頑丈な人間として描かれているようであり「苦悩」があまり前面に押し出されることもなく、どちらかといえば軽快で爽やかな映画ではあるのだが、それでも主人公の苦悩には共感できる。30代前後でまだ都会にしがみつきながらまだ憧れの仕事を諦めず、しかし現実的にその仕事で成功している自分の姿が見えてこない…という状況が私自身と重なるのだ(私はこの映画の主人公よりもさらにいくつか年上ではあるが)。

 アメリカ映画では「青春」で検索するとハイスクールものばっかり出てくるが、実際には青春時代というものはハイスクールを卒業して大学に行ったりした後にも続くものだし、人によってはそのあともグダグダと青春が長引くものだろう。年齢を経るにつれて青春時代特有の新鮮さとか華々しさというものは色褪せていくだろうが、それでも青春は青春だし、周りが青春時代を卒業して大人になっていくなかで未成熟な状態のままでいることにはそれ特有の不安や痛々しさもあれば独特な楽しさや味わい深さもあるというものである。小説などでは20代後半や30代でフラフラしている人が主人公である青春ものもいくつかあるが、映画となるとほとんど見かけることはない。そういう意味でもこの作品は貴重だ。

 

 ストーリーの「軸」となる要素はあまりないが、強いて言うと、主人公のフランシスとそのルームメイトのソフィー(といっても映画の冒頭でルームメイトは解消されるのだが)との間の「女同士の友情」みたいなものが全編を通じて描かれている。友情といっても互いの感情は非対称であるようで、ソフィーはフランシスの元を離れて男と一緒に外国に行ったりする。その一方で、フランシスがソフィーに寄せる感情はかなり重たく、ソフィーのためにボーイフレンドとの関係を解消するくらいだ。フランシスもソフィーのいない場所ではついついソフィーの悪口を並べ立てたりしてしまうが、それも逆に親友感を出している。

 最近ではフェミニズムだかポリコレだかの影響で「シスターフッド」がブームとなっており、映画においても女性の主要人物が二人以上出てくる作品ではお約束のように女同士の連帯や結束を強調する場面を挟んだりしてそれに対していちいち喜ぶ観客がいたりして…、という状況にかなりうんざりさせられているのだが*1、この映画の「女性同士の友情」描写はかなり自然で実際に存在する感じがして良かった。むしろ、男性が主人公の青春ものでこの映画のように「男性同士の友情」を描いていたらかなり偽物くさい描写になっていたことだろう。

 

 俳優陣としては、主人公を演じている(脚本も書いている)グレタ・ガーウィグがかなり良かった。肩幅が広く背も高く歩き方はノシノシしている点が、主人公の丈夫さや健康さと変人っぽさを同時に表現できている。人当たりの良さそうな顔や表情も良い。また、主人公の友人役であるアダム・ドライバーも冗談を言っているシーンや笑顔のシーンが人が良さそうでよかった。悪人が出てくるタイプの映画ではもちろんないのだが、「人の温かさ」や「優しさ」みたいなものを押し付けがましく描くこともなく、些細なセリフや表情でそれらを表現している点が素晴らしいと思う。

*1:余談だが、『アベンジャーズ:エンドゲーム』で女性ヒーローが集結するシーンを劇場で見ていた時には思わず失笑してしまった。あのシーンですらシスターフッドの文脈で褒める人がいるのだが、正気の沙汰ではない。