THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ジョンQ-最後の決断-』+『イン・ハー・シューズ』

●『ジョンQ-最後の決断-』

 

 

 

 

上映当時から作品の存在は知っていたが、あらすじの内容からしていかにも重苦しそうだと決め込んで、20年間ずっと観ていなかった作品だ。そしていざ観てみると、まあ確かに社会派映画ではあるんだけれど、やたらとジョンQデンゼル・ワシントン)に同情してくれる善人が多かったり悪人はいかにも書き割り的な運良くご都合主義のハッピーエンドとなる展開だったり、気が抜けるくらいにうるせえBGMの使い方のヘタクソさだったりと、思ったよりもずっと悪い意味での「軽さ」が強い作品であった。たぶん、批評家ウケは相当悪いんだと思う。……が、しかし、わたしは観ていて楽しかったし、なかなか気に入った。  

リアリティはなくとも「社会」とか「大衆」とかを寓話的に描きながら、小規模なトラブルや危機が起こっては解決するというテンポよく飽きさせない構成で観客を愉しませつつ、資本主義とかアメリカの歪んだ保険システムに対するありきたりでお決まりではあるけれど真っ当な批判をおこなう、という感じは『マネーモンスター』を思い出させる(たぶん『マネーモンスター』は『ジョンQ』を参考にしているんだろう)。

 主人公のデンゼル・ワシントンはもちろんのこと、ロバート・デュヴァル演じる人情味あふれる警部補は魅力的だし、アン・ヘッシュ演じる院長のイヤなヤツ具合もちょうどいい。エディ・グリフィンの気の良さやショーン・ハトシーの小物っぷりなど、脇役も印象的であるし、登場人物の数が多いわりに無駄なキャラクターが少ないのがよいところだ。

 

●『イン・ハー・シューズ

 

 

 

 読字障害のために就労に問題があって性的資本をウリにしながらその場しのぎで将来性のなく人に迷惑をかける生活を過ごしている妹のキャメロン・ディアスと、弁護士として成功しているけれど容姿がよくないのでコンプレックスを抱えている姉のトニ・コレット、そして二人の祖母でありフロリダの老人ホームで暮らしているシャーリー・マクレーンの関係性を描いたヒューマンドラマ。

 すぐに人のモノや金を盗もうとしたり姉のボーイフレンドを考えなしに誘惑したりするなど、ダメ人間としての妹の描写は、露悪的でないぶん底辺の女性の描き方としてリアリティがある。姉の感じているコンプレックスの描写もなかなか生々しい。昨今の映画ではとくに女性の抱える「負」の側面はほとんど描かれないので、彼女たちの描写はなかなか新鮮だ。

 一方で、「負」の描き方のリアリティがあり過ぎるがゆえに、フィクションとしてのポジティブ描写や感動に欠けているのが困りどころ。とくに妹は人に迷惑をかけるダメ人間過ぎて同情も共感もできないので、後半になって彼女に向上したり更生されたりしても気が乗らずに白けてしまう。姉のほうだって悪い人ではないけど魅力的でもないから、彼女の人生の物語にあんまり興味を抱けなかった。