THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

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 実は同性愛者であるベネディクト・カンバーバッチが底意地の悪い「家父長」を演じながら弟の嫁(ジェシー・プレモンズ)の嫁のキルティン・ダンストをねちねちといじめて、ナヨナヨしている嫁の連れ子のコディ・スミット=マクフィーのこともいびろうとしたら彼もどうやら同性愛者らしく、シンパシーを感じたカンバーバッチは連れ子のことを「男」とするためにメンターとなって指導を行うが……というお話。

 舞台や時代の設定は「西部劇」であるは、LGBT要素を観客の予想の付かない方向にうまく活かしたサスペンス作品としてのおもしろさがある。「有害な男らしさ」があーだこーだみたいな、いかにも2021年でウケそうな要素を全面に出しつつも、一面的で単純な「ポリコレ映画」というわけでもないので、とくに批評家からは好まれるタイプの作品であるだろう。アカデミー賞候補だとも言われているようだ。

 ……とはいえ、Netflixで観れるところをわざわざ映画館まで行ってみたのだが、退屈できつかったことは否めない。とくに前半では登場人物の掘り下げに徹してストーリーの起伏やおもしろさが犠牲になっており、中盤でカンバーバッチが同性愛者と判明するあたりからはだんだんと物語に興味を抱けて惹きこまれるようになっていくし、冒頭の意図がよくわからないとある人物のモノローグの意味がクライマックスでようやく判明するあたりも上手いのだが、しかしいかにも「小説」が原作であることがミエミエな構成であることは否めず、「映画」というメディアに移し替えるならもっと工夫するべきであったと思う。BGMもストーリーの重苦しさや陰鬱さを反映したぱっとしないものであり、眠くなっちゃった。

 

 ほとんどストーリーに関わらない脇役のメイドさんを演じているトーマサイン・マッケンジーはやたらと可愛くて魅力的。可愛いと言えばウサギは何羽か出てくるけれど解剖されて内臓を取り出されてしまったり追い詰められて震えさせられた挙句に首を折られたりと散々な目にあっていて気の毒だった(『最後の決闘裁判』とおなじく、動物に対する扱いを通じて女性差別と「有害な男らしさ」を描いているところは注目すべきかもしれない)。

 気の毒といえば、カンバーバッチが演じるキャラクターもネチネチしたイヤな野郎であるとはいえ、いままで苦労して生きてきたことは察せられるので、信頼した相手に裏切られて惨めに死ぬという最期はじつに気の毒だ。逆に、そのカンバーバッチにいじめられていて本来は同情の対象とすべきキルティン・ダンストのキャラクターにはほとんど魅力が感じられなくて、だからあまりかわいそうに思えなかった。