THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ブリッジ・オブ・スパイ』

 

 

 2016年の正月に劇場で観ていたく感動して、ラストシーンではちょっと泣いてしまった作品だ(ほかに「この映画で泣いたなあ」と明確に記憶しているのは『グラン・トリノ』なんだけれど、わたしはいわゆる「男泣き」的なタイプの感動に弱い)。そのあとにも配信でも2度観たけれど、なんど観てもおもしろい。スピルバーグの映画のなかでも『ジョーズ』と並んでいちばんの面白さがあるし、コーエン兄弟ならではのドライでシュールさもある展開や状況描写とスピルバーグ流の濃厚で王道な人物描写と演出が実に理想的な化学反応を生み出しているように思える。

モーリタニアン』と同じく、『ブリッジ・オブ・スパイ』も主人公が弁護士であるために「法の精神」が強調されている。主人公の弁護士であるジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)がCIAだかなんだかのへらへらした諜報員を「アメリカ人は憲法を守ることではじめてアメリカ人として認められるんだ」と説教して怒鳴りつけて追い返すシーンは痛快このうえない。『リチャード・ジュエル』でサム・ロックウェルが演じた弁護士も似たようなキャラクターをしていたけれど、とくにアメリカ映画ではアメリカという国の成り立ちや理念もあって「弁護士」という職業のヒーロー性が輝くようだ。

 裁判がメインの映画ではないのだけれど、国中から嫌われている「敵」であるロシアのスパイ、ルドルフ・アベルマーク・ライランス)を弁護士としての職業理念に基づいて守るドノヴァンの姿には、「法廷もの」の醍醐味が詰まっている。アベル曰く「不屈の男」であるドノヴァンの正義感や信念を真っ向から描き切ることがこの作品のテーマであり、それに関してはかなりストレートでちょっとくどいくらいに劇的。おそらく2016年の時点でも相当な古臭さがある内容ではあっただろうが、最近の映画業界人にはここまで照らいなく「英雄」を描いて感動的なストーリーを作ることはできなくなっているからこそ、逆説的にスピルバーグの偉大さが再確認できることになる(『シカゴ7裁判』も当初の予定通りにスピルバーグが撮っていればもっと面白い作品になっていたことだろう)。

 

 途中でアメリカ軍の兵士だけでなく東ドイツへの留学生までもが捕まってしまって捕虜交換の対象となる、という事実を題材にしたストーリーならではの錯綜や不条理さも、ストーリー展開の意外さや起伏につながっていておもしろい。橋での交換のシーンや「抱擁」に関するミスリーディング、アベルの「偽家族」の白々しさ、東ドイツの司法長官の秘書に「伝言」を伝えるシーンの痛快さ、電車のなかで針の筵になっていたのがすべての事態が終わったら正当に評価されるという帳尻合わせなどなど、映画的で印象に残るシーンも目白押しだ。これからも、なんども定期的に観返す映画のひとつとなるだろう。