THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ドント・ウォーリー』

 

ドント・ウォーリー (字幕版)

ドント・ウォーリー (字幕版)

  • 発売日: 2019/10/18
  • メディア: Prime Video
 

 

 元々からアル中気味で、さらに交通事故により四肢麻痺になってアル中が加速したが、一念発起して禁酒のためのグループセラピーに参加して、さらに風刺漫画を書き出してそれが成功して大新聞にも掲載されるようになった、ジョン・キャラハンという人についての伝記的映画である。

 キャラハンを演じるのはホアキン・フェニックスであり、いつものことながら彼の演技は絶妙だ(捨て子という生い立ちから生じる母との葛藤やドギツいブラックユーモアを売りにしていることなど、偶然であるが同じくホアキン・フェニックス主演の『ジョーカー』を連想させる点が多いところも面白い)。

 そして、自分の酔っ払い運転で助手席にいたキャラハンを四肢麻痺にしてしまった元凶的な存在であるデクスターをジャック・ブラックが、キャラハンと親密な関係になる女性であるアンヌをルーニー・マーラーが、グループセラピーのリーダーでありキャラハンの精神指摘指導者であるドニーをジョナ・ヒルがそれぞれ演じており、脇役もなかなか豪華だ(ただし、アンヌはキャラハンの人生にぽっと出であらわれてキャラハンと付き合うだけのキャラクターの薄い存在であり、ルーニー・マーラーの無駄遣いという感じもある。この役柄にしては美人過ぎてリアリティが感じられないのだ)。

 時系列をシャッフルさせながら描かれる物語は淡々としていて地味なものであり、キャスティングの豪華さでも補いきれない退屈さがあることは否めない。

 

 いま無職中であるわたしは6月から働き始める予定なので、いい機会だとここ最近は節酒しているのだが、とはいえそれ以前も糞尿を垂れ流すようなガチのアル中であったわけではない。この映画を見ているとアル中の恐ろしさがよくわかるので、その点では教育的な作品だ。糞尿を垂れ流すのもイヤだが、周りの人に対する人当たりが強くなって性格の悪い人間になってしまうということもイヤである。

 また、四肢麻痺のリハビリに関する描写もちょっと興味深かった。特に面白かったのが、病院内のカウンセラーがセックスに関する助言を行うところである。また、身体障害者に対する公的な援助のおかげで、キャラハンは事故後もデカい家に住めている。このセックスとデカい家へのアクセスを重視するところがアメリカ的な価値観だなと思った。

 また、キャラハンの風刺漫画が大学新聞に初めて掲載されて、道行く人に自慢するシーン(そして差別的なそのネタを非難されるというオチ)が印象深かった。

 

 劇中でもたびたび挿入されるキャラハンの風刺漫画は不謹慎なネタや差別的なネタも多く、ポリコレとは真逆だ。そのブラックユーモアや不謹慎さがこの映画自体にも存在していればもう少し面白くなっていただろうが、そういうことはなくて、かなり真っ当で無難でおとなしい作品になっている。同じく車椅子の人を扱った伝記映画である『ボストン・ストロング』に比べるとユーモアの量も脚本や画面の構成などもずっと優れて感じられるが、クライマックスの大事なところがぜんぶダニーとキャラハンのセリフで語られているのはちょっと工夫が感じられなくて問題だ。一方で、序盤から中盤までにおけるグループセラピーのシーンは、それぞれの参加者に「実際にこんな人いそうだな」というリアリティが感じられてよかった。