THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

ひとこと感想:『ベイマックス』、『ドクター・ストレンジ』、『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』、『ザ・ヒーロー』

 

 酒を飲みながら見てしまったり、途中で集中力が切れたりして他の作業をして画面から目を話すことが多かった映画たちに対して星を付けて評価するのはさすがに忍びないので、そういう見方をしてしまったときは今後こうやってメモ的な感想だけを残すことにする。

 まあ「本気で見ようと思わなかった」という時点で元々の期待度が低かった作品たちではあるのだが…

 

●『ベイマックス

 

ベイマックス (字幕版)

ベイマックス (字幕版)

  • 発売日: 2015/04/17
  • メディア: Prime Video
 

 

 群像劇であることがウリの作品だが、そのせいで話がとっ散らかっている感じは否めない。主人公以外のヒーローたちは、女子たちは可愛いけど男子たちは見た目もイモくて性格にも魅力がない。また、敵役がディズニーのいつものパターンである「善人の協力者だと思っていたら悪人で黒幕でした」というのは興ざめだ。この作品の数年後に、この作品の悪い点ばっかり引き継いでいている『インクレディブル・ファミリー』が作られたというのもどうかしている。

 また、これは個人的な事情だが、アメコミものに出てくる少年主人公は必ずといってほど秀才か天才だ。スパイダーマンとか遺伝子改造した蜘蛛に刺されて能力が目覚めたという設定なのだから、特殊能力(とヒーローとしての精神性)以外は凡人という設定にしてもいいものなのに、ウェブシューターを自力で開発できるほどの天才である。だから評判のいい『スパイダーバース』も主人公に感情移入できなくて楽しめなかった。アメリカにも少年時代のわたしのようにさほど成績が良くなかったり理系分野が苦手な子どもはいっぱいいるはずなのだが、そういう子たちが感情移入できるような少年主人公の物語はほとんどなくて、子ども向けの作品ですら主人公たちはみんな有能で向上心があって勉学に励む模範的な人物であるのだ。「自堕落なのび太が主人公の物語である『ドラえもん』はアメリカ人には好かれない」という俗説を聞いたことがあるが、確かにありそうな話である。

 

●『ドクター・ストレンジ

 

ドクター・ストレンジ (字幕版)

ドクター・ストレンジ (字幕版)

  • 発売日: 2017/05/03
  • メディア: Prime Video
 

 

 もともとは天才的な医者である主人公のスティーブ・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)は『アイアンマン』のトニー・スタークとかなり性格が被る傲慢な人物であるが、トニー・スタークが持っているようなカリスマ性や愛嬌が少なくて、より神経質で内向的な性格をしている。だからこそ、科学ではなく神秘の力を操るという設定にマッチしている。ここら辺のキャラクターの描き分けや特徴付の繊細さはさすがといったところだ。また、映画としての感触は、軽薄さが特徴的な『アイアンマン』シリーズよりも生真面目さが特徴的な『キャプテン・アメリカ』シリーズに近い。

 お話としてはアメコミ映画にありがちな内輪揉めのいざこざであるし、「オリジンもの」のなかでも退屈さがとりわけ強い作品だ。悪役の存在感はMCUのなかでもかなり薄い方であり、師匠役であるエンシャント・ワン(ティルダ・スウィントン)の方がずっと印象に残る。続編では同門の士であるモルド(キウェテル・イジョフォー)が敵になることが示唆されているが、彼もぱっとしない存在であるからあんまり期待できない。

 現代世界と神秘的なネパールの寺院とのカルチャーギャップをネタにしたギャグ描写はそれなりに面白い。

 空間を様々な形で利用したり変形させたりする魔法をCGで再現したことがウリの作品でもあるが、劇場で初見のですら途中からそのCGにも飽きてしまった。

 MCUにしては珍しくベネディクト・カンバーバッチという元々の「格」が高い俳優を主演に据えているが、実際、カンバーバッチに救われているところが大きい作品だ。もっとショボい俳優が主演だったらかなりキツかっただろう。

 

●『ザ・ブック・オブ・ヘンリー』

 

 

The Book of Henry

The Book of Henry

 

 

  Wikipediaによると本国では批評家たちからボロボロに酷評されていて、日本語圏の映画感想ブログを見てもあまり高く評価されていない作品である。そのために大して期待せずに見始めたが、思ったほど悪くなかった。名作や良作ではないが、佳作ではある。

 天才の子どもが主人公のお話だが、『gifted/ギフテッド』の主人公よりもずっと漫画的であリアリティのない存在になっている。作品的にも『gifted/ギフテッド』のような真面目なヒューマンドラマではなく、より通俗的でセンチメンタルなお話だ。主人公が前半で退場するところはちょっと驚いた。後半は、子どもの遺志を受け継ごうとする母親(ナオミ・ワッツ)が主人公となる。

 天才の子どもが死後に残す計画が「虐待されている女の子を救うために隣人を殺害する」というところが、実に才能の無駄遣いという感じだ。その計画に最初は抵抗しながらもけっきょく唯々諾々は従う母親も大人として情けなさ過ぎるだろうという気はするが、息子が死ぬ前から子供っぽくて自制心がなくて精神的に不安定で家庭の資産運用も息子に頼りきり、というところは描かれている。また、天才でありながらもその精神性はけっきょく子どもらしい極端なものであった、というところもちょっと印象的だ。

 母親が隣人を殺害する直前になって気持ちを翻すシーンは、描き用によってはもっと胸を打つシーンになっただろうが、ピタゴラスイッチ的な仕掛けが荒唐無稽過ぎて「なんのこっちゃ」という感じになってしまっている(アレは弟が用意したもので、最後には天才のヘンリーではなく凡人の弟の意思が勝った、という描写だろうか?)。

 終盤の、学芸会での子どもたちの出し物の場面と母親による隣人の殺害計画の場面が同時進行で描かれるところはかなり陳腐であったが、女の子によるコンテポラリーダンスはなかなかのもの。そのダンスを見て感動した校長が虐待を通報した、通報を受けて観念した隣人はけっきょく自殺した、という展開もちょっとセンチメンタル過ぎて御都合主義的ではあるが、まあいいじゃんと思わなくもない。少なくとも、監督であるコリン・トレヴォロウのキャリアが台無しになるほどひどい映画ではないはずだ。

 

●『ザ・ヒーロー』

 

 

ザ・ヒーロー (字幕版)

ザ・ヒーロー (字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

 

 昔は西部劇の名優であったがいまでは映画に出ることもとんとなくなってしまい、年の離れた友人と大麻を吸いながら無為の日々を送っている老人をサム・エリオットが演じる渋い映画だ。しかし、ちょっと渋過ぎて、地味過ぎる。

 すい臓ガンが発覚して余命が短いところとか、式でのスピーチがSNSでバズって久方ぶりに世間から注目されるとか、年若い恋人ができるとか娘と再会するとか……フックとなりそうな箇所が色々とあるのだが、どれも凡庸であり、他の映画で同様なシーンがもっといい描かれ方をされているのを見たことがあるような感じである。

 渋くても面白くて心打つ映画はあるものだが、この映画は渋いだけにとどまっていた。