『ワン・オブ・アス』
ニューヨークのブルックリンにあるユダヤ教の超正統派(ハシド派)のコミュニティに生まれ育ったが、世俗的な知識を付けることも許さず女性の人権も抑圧して少年に対するレイプ事件も隠蔽してしまうコミュニティの抑圧性や閉鎖性に耐えかねて離脱した3人の若者を軸に描いたドキュメンタリー。
アメリカのなかでもまさかのニューヨークにこんなに極端な集団が存続していること、またアメリカの現行の価値観や社会風潮もこのコミュニティには及ばずに21世紀になっても平然と性的虐待や人権侵害が横行していること…この事実がかなりショッキングであり、「マジかよ」という驚きを感じて見ることができる。よく欧米では「イスラム系移民が世俗的民主主義的価値観を破壊する」ということが喧伝されるが、ハシド派コミュニティのやっていることはイスラム教のそれとほとんど同じだ。「たしかにこんな連中が増えすぎたらヤバいよなあ」と思ったし、「ニューヨークのど真ん中にいるコミュニティですら外部に影響は与えていないんだから(内部の人に対する抑圧はともかく)、住み分けはできてしまいそうだな」と思ったりもした。
とはいえ、基本的には脱退者からの視点でのみ語られてコミュニティの抑圧性ばかりが強調されるので、労働者だけでなく経営者の言い分も映すことで逆にメッセージ性が強調されていた『アメリカン・ファクトリー』にあったような多層性や複雑性は存在しない。
ハシド派がコミュニティ内のメンバーに対して行なっている抑圧はもちろん取り上げられるべきだが、かといってハシド派自体はアメリカ国内においてはかなりのマイノリティであるだろうから、それを全面的に批判する内容には見ていて居心地の悪さを感じなくもない。同じ監督が『ジーザス・キャンプ〜アメリカを動かすキリスト教原理主義〜』を撮っていたと聞いて納得したが、保守主義や敬虔な宗教とはリベラルでインテリで世俗主義な人間が見て「やっぱり宗教とか抑圧的なコミュニティはクソだな」と溜飲を下げるためのドキュメンタリーなんだろうなという気もする。