THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『ハドソン川の奇跡』

 

ハドソン川の奇跡(字幕版)

ハドソン川の奇跡(字幕版)

  • 発売日: 2016/12/22
  • メディア: Prime Video
 

 

 実際に起きたUSエアウェイズ1549便不時着水事故を題材にしており、見事に不時着を成功させた機長が主人公(トム・ハンクス)。しかし、事故そのものではなく、事故の調査委員会が事後に行った主人公への追求とそれに対する主人公の対処が話のメインになっているところがミソだ。

 これは、不時着が無事に行われ過ぎたためにそこをメインにしてもドラマにならない、という判断であるだろう。また、調査委員会などが主人公の責任や罪を追求しようとするのに対してニューヨークの街の人々は手放しで主人公を英雄視して称えてくれる、というギャップが描けるのも効果的だ。『15時17分、パリ行き』のように主人公の若かりし頃のどうでもいい過去を延々と描かれたらたまったものではないが、そうではなくてよかった。

 機長である主人公だけでなく、当日の飛行機に乗り合わせていた乗客たちの姿も描かれるが、この人たちはもう本当に「たまたまその飛行機に乗り合わせていただけの人」であり英雄でもなんでもない(アメリカには「たまたま〇〇しただけの人」を隙あらば英雄的に描こうとする奇妙な風習がある)。飛行機のトラブルに対する主人公の対処方法も絵面的にはかなり地味だ。調査委員会の追求に対する主人公の反撃方法も地味だし、副機長による小粋なジョークで映画が終わるという締め方もまた地味だ。映画の作り方としては正道から外れているはずである。

 しかし、それでも妙に感動する映画である。最初に劇場で見たときには涙を流してしまったことも覚えている。しかし、どこにどう感動するのかと聞かれると、説明が難しい。ニューヨークの人々の温かさや、主人公の職業人としての使命感とかが胸にクる感じだろうか。

 最近のイーストウッドは地味な映画ばかり作るし、映画のなかも白黒や茶色や灰色が目立って地味なのだが、この映画は主演がトム・ハンクスという華のある人物であるために、『15時17分、パリ行き』や『リチャード・ジュエル』よりかは贅沢感がある。