『用心棒』
黒澤明の作品といえば以前は『生きる』がいちばん好きだったのだが、昨年に『用心棒』を再視聴してからは『用心棒』に軍杯をあげている。続編にあたる『椿三十郎』もかなり好きだ。どちらもシンプルながらに痛快で面白い。
『用心棒』は宿場町の跡目を巡って二組のヤクザ勢力が争っているところにふらりとあらわれた浪人の主人公が、そのめっぽう強い腕前を活かしつつ色々な策を巡ってヤクザ同士を争わせて戦力を削ぐことを狙い、途中で色々とトラブルが起こって目論見がバレて危機に陥りつつも最終的にはヤクザを全員片付けてしまう、というストーリーだ。
目立ったヒロインがいるわけではなくて、むしろメシ屋の爺さんが最初は主人公に対して刺々しい態度を取りつつもだんだんと主人公のことを理解して優しくしてくれるツンデレ的態度をとったりクライマックスは敵勢力に縄で縛られたりと、ヒロイン的な立ち位置になっている。
棺桶屋の主人や「お前は首でもくくりな」と主人公に言い放たれてしまう番太の半助、カチコミの前ににっこり笑顔で逃げ出してしまう主人公とは別の用心棒など、モブキャラたちがみんなユーモラスで印象的だ。敵役である卯之助や亥之吉も憎めない存在である(ジャイアント馬場みたいな見た目をした羅生門綱五郎が演じる敵方の用心棒も、かなり印象に残る存在である)。
そして、三船敏郎演じる主人公がなにしろ痛快な存在でいい。彼が肩をいからして登場するオープニングも、そして肩をいからして「あばよ」と言って去っていくエンディングもとにかくシンプルで素晴らしい。話の筋自体はけっこう二転三転して複雑なのだが、出だしと終わりの単純さが物語に一本筋を与えて入り込みやすくして視聴後の感覚を爽快なものにしてもいるのである。主人公の本名も舞台となる地域や時代も明らかにされないところもシンプルさに拍車を与えているし、「寓話」という感じすらある。こういう作品は現代ではなかなかお目にかかれない。
話のテンポもいいし、音楽も軽快で素晴らしい。年に一度のペースで見返してみても飽きない作品である。