THE★映画日記

映画(たまに漫画や文学)の感想と批評、映画を取り巻く風潮についての雑感など。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』

 

 

・当初は観る気はなかったのだけれど、先週末は久しぶりに映画をいっぱい観ることになり、そしてちょうどフィナーレ上映のタイミングであったので、「せっかくだから……」と思って観にいった。

・ついでに、『序』『破』『Q』も事前にPrime Videoで鑑賞。
・『序』を最初に観たのは『破』の公開当時にテレビで放映されたタイミング。大学生のころで、先輩の家でダラダラと雑談しながら観た(正確には自分だけが一方的にしゃべっていて、ヲタクの先輩たちは映画に集中していた)。しゃべっているうちにいつの間にかエンディングになっていて「あれ、ヤシマ作戦ってもう終わったの?」とキョトンとなったりしたものだ。
・改めて観ても、『序』は一本の映画としてはイマイチなように思える。テレビ版の総集編のような内容でしかなく、テンポが平板であり、ダレる。今回も後半には集中力が切れてしまい、また気が付いたらヤシマ作戦が終了していた。たぶん次に観るときにもぼーっとしているうちにヤシマ作戦が終わるのだろう。


・『破』は公開当時にヲタクの友人たちと映画館に観に行った。こちらは『序』とは違い、テンポよく山あり谷ありな構成であり一本の映画としてもなかなか良い出来だと思う(一緒に観に行った連中は上映後にちょっと興奮し過ぎていて「そこまで興奮するような内容か?稗とか粟とかしか食べたことがないのかな?」とは思ったりしたが、まあそれはそれ)。改めてPrime Videoで見返してもやはり脚本が良いと思った。食事会のくだりが気が利いている。

・『Q』は今回が初めての鑑賞。公開当時の世間の反応や評判などは覚えていたし、ストーリーの雰囲気や内容も漏れ聞いている状態で観ることになったが、そのおかげかそこそこ楽しめた。やはり一本の映画として評価できる内容ではないが、雰囲気が独自だし展開も予測が付かないしで、すくなくとも予定調和ではなく「変なものを見たなあ」という感じは得られる。オリジナリティって大事だ。

・ついでに『Airまごころを君に』も観た。こちらも、内容や展開についてはそれこそ20年近く前から諸々の雑誌や友人との会話から知っていたのだが、はじめて観てみると実に印象深い。自衛隊ネルフの職員が虐殺されるシーンやアスカの鳥葬シーンなど、ホラー描写やグロテスク描写のクオリティがふつうに高くて、効果的にショックが与えられる。終盤の展開や映像にも唖然とさせられた。

・それでようやく『シン』を観に行った。上映前に四十分ほど劇場挨拶が同時中継されており、多少のネタバレをされてしまいながらも、フィナーレらしい熱くて感動的な雰囲気を楽しめた。
・とはいえ、公開から4カ月経って観に行くので、『シン』についてもどんな展開や着地になるかはおおむねわかっていった。……しかしながら、いざ観てみても「これまでの経緯がこうでいまの展開がこうならこう着地するしかないだろうな」ということはすぐに察しがついてしまうような内容でもあるように思える。

・序盤の第三村の場面はかなりよかった。ありがちなシーンやセリフも多いのだがその描写のクオリティが高いし、シンジくんが立ち直るまでにかなりの時間をかけたり人や自然と関わる喜びを覚えた綾波レイをあっけなく死なせてしまう展開などは二時間半の映画でないとかけないような内容だから、贅沢さを感じられてよい。とにかく綾波レイがかわいかった。これまでは圧倒的にアスカ派だったのだが、なんか『Q』以降は意地悪だしヒステリックでイヤなので綾波に乗り換えることにした。

・一方で、ヴンダー関連の描写やヤマト作戦のあたりは明確に中だれしていたように思える。なんかよくわからない用語をいっぱい唱えながらなんか知らんけれど熱い雰囲気をかもしだす、というのはエヴァとかロボットもの全般において定番であり、
「そういうものだ」として受け止めるべきなのかもしれないけれど、観ていてしらけてしまう。真っ赤だったり真っ白だったり幾何学的だったりする超常空間を舞台にロボットや宇宙戦艦が躍動するというのはなかなか見ない絵面であり、最初は「おっ」となったが、真っ白な背景がずっと続くと画面の単調さに飽きてしまう。
・そういえば冒頭のパリのシーンはまっとうなアクションシーンという感じでふつうに楽しめたしワクワクした。
・『Q』の頃からそうなのだが、ヴンダー関連の描写や展開は常に上滑りしていたように感じられる。なんといってもミサトさんが艦長になっていることにリアリティを感じられず、「人の上に立つような性格していないして人をまとめられるような器もないでしょお前」って思っちゃう。

・シンジの思い出を再現したような空間で初号機と十三号機が対峙するシーンは絵面が印象的でテンポもよく、かなり楽しかった。
・ゲンドウが自分の生い立ちや亡くした妻への想いなどをモノローグでぜんぶ語っちゃうシーンは、ふつうの映画ならひねりがなく直接的過ぎてダメだしハリウッドの人からは失笑されるような展開だと思うのだが、なんか妙な迫力があって感動した。
・おなじく、シンジくんが綾波とかアスカとかカヲル君とかに挨拶まわりをするシーンも、普通の映画ならファンサービスのための蛇足にしかならないところだが、この映画だとなんか許せてしまう。
・これは、エヴァが20年だか30年だか前のテレビアニメ版から続く作品であるということや、劇場版が完結するまでにも10年以上の歳月がかかったという時間的な重み、そして庵野監督のキャラクター性の強さとかそういうのが作用しているのだろう。わたしは庵野監督のことはよく知らないけれど、『プロフェッショナル:仕事の流儀』(を観たみんなのつぶやき)をみるといろいろと印象的な人物であるらしく、そして庵野監督について詳しい人は『シン』という作品についても「これは庵野監督の私的な要素がいろいろとはいった作品だ」と前提したうえで観るのであり、さらに庵野監督自身がそう観られることをわかったうえで私的な要素を前面に出す、といった構成でつくられているのだ。

・挨拶まわりのシーンにせよ「さあ、行こう!」のセリフからの実写の描写にせよ、昔からのエヴァのファンなら感無量であることは想像に難くない。逆に言えば、昔からのエヴァのファンではない人は、『シン』や新劇場版の面白さはたぶん半分程度も味わえないということである(「自分はエヴァのファンではないけど映画ファンとしては新劇場版四部作を充分に楽しめた」とか言うひとがいたら欺瞞でしかない)。まあそういう作品があってもいいだろう。